外食産業の活性化には、「商品の低価格化」「食材原価、人件費のコストダウン」など数々の解決策が存在する。外食ドットビズでは、外食店のレゾン・デートル(存在理由)は何か? 内食・中食との差別化要因は何か?といった根源的な課題も重視しており、その解決策を考える上でのキーワードのひとつに”ホスピタリティ”があるのではないかと考えている。
ホスピタリティは、一般的に「おもてなし」「歓待」「心のこもったサービス」と解釈される場合が多いが、実態が見えないものという印象があることも事実である。今回は、外食店舗へ行きたくなるサービスとはどういうものかという初歩的な問題から、外食産業におけるホスピタリティについて議論してみたい。参加者は、フードジャーナリストの加藤秀雄氏、フードアナリストの堀田宗徳氏、外食チェーン OBの湯澤一比古氏、外食ドットビズ論説主幹の坂尻高志氏の4人。いずれも外食のプロというべき面々であるが、今回は利用者としての観点も交えながら、外食産業におけるホスピタリティへの課題を提言したいと思う。司会は、株式会社フォアサイト代表取締役・酒美保夫。
【酒美氏】 外食産業が活性する状況を作るために、ホスピタリティに関して言いたいこと、提案したいことをお願いします。
【堀田氏】 外食産業のサービス業的機能に手を加える時期に来ています。そろそろサービスで差別化できないかと考えることが必要ではないかと思います。サービスを良くしたから売上が急に上がるわけではないですが、長続きする価値です。ホスピタリティ = サービスだとするならば、サービスで差別化して売上を安定的に確保することを課題にすべきだろうと思います。
【加藤氏】 外食産業の強さというのは、足し算ではなく掛け算で効いてくるといわれています。価格、雰囲気、味、接客がオール3点なら、足し算では12点ですが、掛け算では81点になります。ここで接客を5点に上げることができれば、135点に跳ね上がります。逆に0点になれば、トータルで0点になります。堀田さんがおっしゃるように、製造と小売の部分は手を尽くしてきたのだから、接客で点数を上げることはこれからの力関係に大きな影響が出てきます。
【酒美氏】 接客で勝ち残るために、店舗に必要な要素は何だとお考えですか。
【加藤氏】 外食は、チェーンがどれだけ出店しようと、やはり個店対個店の戦いです。個店にもチェーン店に勝てる可能性があるわけです。その戦いの中で、ホスピタリティを磨く必要性があることを従業員に徹底して理解させるべきだと思います。マニュアルは最低レベルを保証するもので、これからは、そこにプラスαをいかに乗せていくかという勝負になっていくはずです。それには、オーナーや店長が後ろ姿を見せるしか手段はないような気がします。それから、従業員にゆとりがある店はいいですね。横浜にある地域型のFRでは、「コンシェルジェ」という女性スタッフを置いている例があります。料理を運んだり注文を取ったりという仕事は一切せずに、お客さんへの目配りだけをするという専門スタッフです。何か困っていそうな人がいたら、すぐに駆けつけてお話を聞くんです。そういう人を入れられる店のゆとりが、ホスピタリティにつながっているのです。ギリギリのシフトを組んで、皆がピリピリしている状況では機能しない役目ですよね。もちろん、店長自身がワーカーになってしまわないことも大切だと思います。
【坂尻氏】 主にチェーン店の場合ですが、マニュアルさえ守っていればいいんだという考え方は捨てるべきで、それをスタッフにも浸透させなければいけません。全国均一で同じサービスを受けられるという理由で、このチェーン店を選ぼうというお客さんはもういないのですから。食材と同じように、サービス面でも地産地消が求められているのでしょう。商品開発にしろ何にしろ、その地域の中で勝負していくという考え方を持つことが大切ではないでしょうか。地域に見合う内容で、お客さんの目を見ながら商売をできる組織になっていかないと、これから生き残れないだろうと思います。
坂尻 高志(写真前段左)
外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長、事業部運営スタッフ、本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。 1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。
加藤 秀雄(写真前段中央)
1951年東京生まれ。73年に日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、同年10月の創刊時から副編集長職に。
91年9月から2000年7月まで、9年9カ月にわたり編集長を務める。2000年12月にフードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。03年1月、ベンチャー・サービス局次長、同3月付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任する。06年3月、日経BP社を退社。98年4月からは女子栄養大学非常勤講師を兼務(08年3月まで)。05年4月から大正大学、東京栄養食料専門学校非常勤講師。
堀田 宗徳(写真前段右)
1957年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て、1989年に農林水産省所管の財団法人外食産業総合調査研究センターの研究員として入社。99年、主任研究員となる。05年から関東学院大学人間環境学部、尚絅学院大学総合人間科学部、07年から宮城大学食産業学部、仙台白百合女子大学で非常勤講師(フードサース論、フードビジネス論、フードサービス産業概論、フードサービス事業運営論、食品企業組織論など担当)も務める。09年から宮城大学食産業学部フードビジネス学科准教授に就任。
専門領域は、個別外食・中食企業の経営戦略分析、個別外食・中食企業の財務分析、外食・中食産業のセミマクロ的動向分析、外食産業市場規模の推計、中食商品市場規模の推計、外食・中食等に関する統計整備など。主な著作は、フードシステム全集第7巻「外食産業の担い手育成に関する制度・施策」(共著、日本フードシステム学会刊)、「明日をめざす日本農業」(共著、幸書房)、「外食産業の動向」、「外食企業の経営指標」(いずれも外食総研刊「季刊 外食産業研究」)など著作多数。
湯澤 一比古(写真後段左)
1953年東京生まれ。外食企業客席係を経て、システム担当となる。2007年9月まで同社でシステム室長を務める。
株式会社廣告社ぶれいん 取締役 企画営業部長
出井商事株式会社 経営企画室 室長
miniSeminar(リテールビジネスのIT研究会) 発起人メンバー
NPO法人地域自立ソフトウェア連携機構 理事
オープンソースソフトウェア協会 事務局
Linixコンソーシアム 業務アプリケーション部会
主な著作は、「オープンソースじゃなきゃ駄目」
酒美 保夫(写真後段右)
外食産業向けシステム大手のセイコーインスツルメンツ株式会社に勤務して25年、業界初のオーダリングシステムをプロジェクトリーダとして立ち上げ、外食産業御三家をはじめ多くの店舗に採用され、業界認知を受ける。また、事業部長として常にビジネスを牽引し続けてきた。2003年12月、新たな外食産業へのソリューションを追求すべく、株式会社フォアサイトを設立する。