外食産業の活性化には、「商品の低価格化」「食材原価、人件費のコストダウン」など数々の解決策が存在する。外食ドットビズでは、外食店のレゾン・デートル(存在理由)は何か? 内食・中食との差別化要因は何か?といった根源的な課題も重視しており、その解決策を考える上でのキーワードのひとつに”ホスピタリティ”があるのではないかと考えている。
ホスピタリティは、一般的に「おもてなし」「歓待」「心のこもったサービス」と解釈される場合が多いが、実態が見えないものという印象があることも事実である。今回は、外食店舗へ行きたくなるサービスとはどういうものかという初歩的な問題から、外食産業におけるホスピタリティについて議論してみたい。参加者は、フードジャーナリストの加藤秀雄氏、フードアナリストの堀田宗徳氏、外食チェーン OBの湯澤一比古氏、外食ドットビズ論説主幹の坂尻高志氏の4人。いずれも外食のプロというべき面々であるが、今回は利用者としての観点も交えながら、外食産業におけるホスピタリティへの課題を提言したいと思う。司会は、株式会社フォアサイト代表取締役・酒美保夫。
【酒美氏】 最近の外食経験の中で、ホスピタリティ精神あふれる接客を目撃したという方はいますか?
【湯澤氏】 つい最近、ファミレスの接客で驚いたことがあります。おそらく高校生か大学生になったばかりと思われる女の子3人組が私の近くの席にいたのですが、「 春キャベツがこんなに苦いわけはない。肉にもキャベツの味が付いてるから取り替えてくれ 」 と言ったんです。そのファミレス、デニーズですけど、すべて取り替えただけでなく、キャベツをレタスに代えて提供していました。
【坂尻氏】 エラいですね(笑)
【湯澤氏】 ほとんどクレーマーと言いたくなるような女の子ですよね。そんな文句を言う方もすごいと思いますが、これはホスピタリティだなと思いました。
【堀田氏】 個人の味覚の問題ですから、対応が難しいですね。
【湯澤氏】 ホスピタリティの一環なのか、反対なのか、私にもよく分かりませんが、これからは “ クレーマビリティー ” といった視点もありかもしれませんね。「 あの店は、クレーマビリティーが高いから行こう 」 という売りで集客する(笑)。
【堀田氏】 悪意のある第三者がいなければ良いんでしょうけど(笑)
【湯澤氏】 でも、クレーマー対策とホスピタリティは、表裏一体の問題にも思えます。
【一同】 それはその通りですね。
【堀田氏】 外食のホスピタリティとは何か?というのが今回の主題ですよね。定義付けする必要はないと思いますが、もし、“ 外食に行きたくなること ” なのであれば、すべてがホスピタリティになるのではないでしょうか。ファサードも、従業員の接客サービスも、メニューもそうです。あらゆるものが、来店を誘う要因になりうるのですから。ただ、一般的には、ホスピタリティ=サービスという構図ですね。
【湯澤氏】 ある Webの単語帳でシンプルに説明しているものがありました。そこでも実はサービスですが、サービスという言葉には 「 従業員が相手に奴隷のように仕えて受け入れられる 」 というイメージがあるというわけです。でも、ホスピタリティは 「 積極的に相手に喜んでもらおう 」 というイメージがある。同じ行為をするにしても、サービスとホスピタリティでは従業員のマインドが違うのではないかという見解はおもしろいですね。
【堀田氏】 私が、ホスピタリティの捉え方としておもしろく感じたのは、リッツカールトンの考え方です。「 We are ladies and gentlemen serving ladies and gentlemen 」 という文章で、「 私たちは、紳士淑女をもてなす紳士淑女である 」 という意味です。要するに、サーブする方もされる方も立場は対等ということです。湯澤さんがおっしゃったように、対等であるからこそ、心を込めてサービスするという自身を持つことがホスピタリティには必要という気がします。
【加藤氏】 ホテルの例では、ヨーロッパとアメリカの間でも違いもありますね。ホテルというのは、お客さんを一切動かしてはいけない、従業員が動くものというのがヨーロッパ的な考えです。部屋に冷蔵庫を置いてミネラルウォーターを入れておいてくれれば、客が自分で勝手に飲むのに、ヨーロッパの高級ホテルはお客さんが水を飲みたいといえば持っていくという姿勢で、それがホスピタリティの原点となっています。ホテルに医療行為がつけばホスピタルになるということですよね。
【坂尻氏】 いろいろな定義や意見がありますから、どれが正しくて間違っているというのはないのでしょうが、僕らがホスピタリティ精神というときは、サービスの形態だろうが、商品だろうが、雰囲気だろうが、「 お客さんが喜んでくれてことに対して、それが自分の喜びにもなっている 」 というものではないでしょうか。外食にしろ、病院にしろ、俗にホスピタリティ産業と呼ばれる場所で、自分が従事していることにやる気・生き甲斐を持つことが原点だろうと思います。高級店でいろいろな知識を頭に入れて説明するホスピタリティ精神があれば、ファストフードに昨日入ったような子が持っているホスピタリティ精神もあるはずです。誰に教わったわけでもないのに、すぐにお客さんのところに飛んできて何かをしてあげるという気持ちを持っている子もいますからね。
坂尻 高志(写真前段左)
外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長、事業部運営スタッフ、本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。 1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。
加藤 秀雄(写真前段中央)
1951年東京生まれ。73年に日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、同年10月の創刊時から副編集長職に。
91年9月から2000年7月まで、9年9カ月にわたり編集長を務める。2000年12月にフードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。03年1月、ベンチャー・サービス局次長、同3月付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任する。06年3月、日経BP社を退社。98年4月からは女子栄養大学非常勤講師を兼務(08年3月まで)。05年4月から大正大学、東京栄養食料専門学校非常勤講師。
堀田 宗徳(写真前段右)
1957年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て、1989年に農林水産省所管の財団法人外食産業総合調査研究センターの研究員として入社。99年、主任研究員となる。05年から関東学院大学人間環境学部、尚絅学院大学総合人間科学部、07年から宮城大学食産業学部、仙台白百合女子大学で非常勤講師(フードサース論、フードビジネス論、フードサービス産業概論、フードサービス事業運営論、食品企業組織論など担当)も務める。09年から宮城大学食産業学部フードビジネス学科准教授に就任。
専門領域は、個別外食・中食企業の経営戦略分析、個別外食・中食企業の財務分析、外食・中食産業のセミマクロ的動向分析、外食産業市場規模の推計、中食商品市場規模の推計、外食・中食等に関する統計整備など。主な著作は、フードシステム全集第7巻「外食産業の担い手育成に関する制度・施策」(共著、日本フードシステム学会刊)、「明日をめざす日本農業」(共著、幸書房)、「外食産業の動向」、「外食企業の経営指標」(いずれも外食総研刊「季刊 外食産業研究」)など著作多数。
湯澤 一比古(写真後段左)
1953年東京生まれ。外食企業客席係を経て、システム担当となる。2007年9月まで同社でシステム室長を務める。
株式会社廣告社ぶれいん 取締役 企画営業部長
出井商事株式会社 経営企画室 室長
miniSeminar(リテールビジネスのIT研究会) 発起人メンバー
NPO法人地域自立ソフトウェア連携機構 理事
オープンソースソフトウェア協会 事務局
Linixコンソーシアム 業務アプリケーション部会
主な著作は、「オープンソースじゃなきゃ駄目」
酒美 保夫(写真後段右)
外食産業向けシステム大手のセイコーインスツルメンツ株式会社に勤務して25年、業界初のオーダリングシステムをプロジェクトリーダとして立ち上げ、外食産業御三家をはじめ多くの店舗に採用され、業界認知を受ける。また、事業部長として常にビジネスを牽引し続けてきた。2003年12月、新たな外食産業へのソリューションを追求すべく、株式会社フォアサイトを設立する。