外食産業の活性化には、「商品の低価格化」「食材原価、人件費のコストダウン」など数々の解決策が存在する。外食ドットビズでは、外食店のレゾン・デートル(存在理由)は何か? 内食・中食との差別化要因は何か?といった根源的な課題も重視しており、その解決策を考える上でのキーワードのひとつに”ホスピタリティ”があるのではないかと考えている。
ホスピタリティは、一般的に「おもてなし」「歓待」「心のこもったサービス」と解釈される場合が多いが、実態が見えないものという印象があることも事実である。今回は、外食店舗へ行きたくなるサービスとはどういうものかという初歩的な問題から、外食産業におけるホスピタリティについて議論してみたい。参加者は、フードジャーナリストの加藤秀雄氏、フードアナリストの堀田宗徳氏、外食チェーン OBの湯澤一比古氏、外食ドットビズ論説主幹の坂尻高志氏の4人。いずれも外食のプロというべき面々であるが、今回は利用者としての観点も交えながら、外食産業におけるホスピタリティへの課題を提言したいと思う。司会は、株式会社フォアサイト代表取締役・酒美保夫。
【酒美氏】 外食総研の調査によると、平成20年12月時点で1定点あたりの客数は平成18年4月以来33ヶ月連続して対前年実績を下回っています。その一方、客単価は10ヶ月連続で対前年を上回っているので、売上低迷理由の一つに再来顧客の伸び悩みがあると想定できます。そのことから、“ またそのお店に行きたいと思わせる要因 ” “ 誰かをそのお店に連れて行きたいと思わせる要因 ” が何かを探っていきたいと思いますが、まずは、一般消費者の来店頻度が下がる中で、皆さんが最近どういう外食体験をされているのか教えてください。
【加藤氏】 あまり外食しないんですよね(笑)。行きつけの居酒屋がある位です。味がいい、酒の品揃えが多い、居心地がいいといった理由で行く店を決めてしまっている状況です。
【酒美氏】 外食に行かれないのは、生活パターンが変わって昼間に外食しなくなったなどの理由があるのですか?
【加藤氏】 もともとしないですね。事務所でカップラーメンが多いです(笑)。
【堀田氏】 すいません、私もそうですね。昼は、中食でおにぎりが多いです。ちなみに、去年・今年と消費者調査をやったのですが、「 どこで食べましたか? 」 という調査をやると、ランチでハンバーガー店という人が非常に多くなっていること少し驚きました。定食屋、洋食屋、ファミレスなど 20種類ほど選択肢を挙げたのですが、特に女性がハンバーガー屋によく行っているようです。ボリュームのあるハンバーガーではなく、サラダと何か一品をチョイスして食べているようで、うまく女性を取り込むメニューが奏功したのだろうと思います。
【湯澤氏】 孫ができたことも関係していますが、ファミリーレストランに行く回数が増えました。いいですよ、ファミレス(笑)。
【堀田氏】 ファミレスを選ぶ理由は何ですか?
【湯澤氏】 駐車場があるからでしょうね。家族で行くと便利ですから。
【坂尻氏】 私もプライベートで外食を楽しむ、と言う事が少なくなりましたね。仕事の一環になってしまうので楽しめない。仕事目線を抜いて外食する場合は、時間がないときに飛び込む立ち食いそば屋とファストフードです。完全に利便性だけで選んでますから、何も期待してない。とにかく早く出てくれば良い。
【堀田氏】 腹が減ったから食うという外食ですね。そうやってランチを食べる人はいるんですが、ディナーが問題ですよね。私は、ランチは非日常外食から日常外食になってしまいましたが、ディナーにはまだ非日常性が残っていると思います。毎日、夕食を外で食べるわけではないですから、ディナーの場合は、“ 外食をツールに何かを行う ” という感覚があるのではないでしょうか。
【湯澤氏】 女性を口説くというのもそうですか?
【堀田氏】 それも一つだと思います。食欲という生理的欲求ではなく、コミュニケーションを含めて社会的・文化的欲求を満たすものではないでしょうか。ランチは腹が減ったから食べるという生理的欲求。そのディナーに頻繁に行かなくなっているわけです。
【酒美氏】 外食店に行くこととホスピタリティの間には、強い関係があるとお考えですか?
【加藤氏】 言われ続けていることですが、やはり、外食に行く時にはワクワク感が必要な気がします。私が店を選ぶ決め手となっている、味・品揃え・居心地というのもそうです。要するに、それがホスピタリティなんでしょう。ワクワク感をいかに演出できるか。これがお客さんを捕まえられるか否かの差になってくるのじゃないかと自分の利用経験から思いますね。
【堀田氏】 ホスピタリティというのは、経営サイドから見ると「サービス」にあたる のじゃないかと思います。飲食店の機能は、メニューを作るという製造業的機能、メニューを売る小売業的機能、接客や食べる場を提供するサービス業的機能があるわけです。製造業的、小売業的機能には、各社がいろいろと手を加えてきましたが、サービス業的機能には変化がありませんでした。マニュアルがあったこと、サービス向上が売上に直結するとは限らないということが理由に挙げられるかもしれませんが、それによって、外食におけるホスピタリティが遅れてしまったと思います。
坂尻 高志(写真前段左)
外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長、事業部運営スタッフ、本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。 1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。
加藤 秀雄(写真前段中央)
1951年東京生まれ。73年に日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、同年10月の創刊時から副編集長職に。
91年9月から2000年7月まで、9年9カ月にわたり編集長を務める。2000年12月にフードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。03年1月、ベンチャー・サービス局次長、同3月付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任する。06年3月、日経BP社を退社。98年4月からは女子栄養大学非常勤講師を兼務(08年3月まで)。05年4月から大正大学、東京栄養食料専門学校非常勤講師。
堀田 宗徳(写真前段右)
1957年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て、1989年に農林水産省所管の財団法人外食産業総合調査研究センターの研究員として入社。99年、主任研究員となる。05年から関東学院大学人間環境学部、尚絅学院大学総合人間科学部、07年から宮城大学食産業学部、仙台白百合女子大学で非常勤講師(フードサース論、フードビジネス論、フードサービス産業概論、フードサービス事業運営論、食品企業組織論など担当)も務める。09年から宮城大学食産業学部フードビジネス学科准教授に就任。
専門領域は、個別外食・中食企業の経営戦略分析、個別外食・中食企業の財務分析、外食・中食産業のセミマクロ的動向分析、外食産業市場規模の推計、中食商品市場規模の推計、外食・中食等に関する統計整備など。主な著作は、フードシステム全集第7巻「外食産業の担い手育成に関する制度・施策」(共著、日本フードシステム学会刊)、「明日をめざす日本農業」(共著、幸書房)、「外食産業の動向」、「外食企業の経営指標」(いずれも外食総研刊「季刊 外食産業研究」)など著作多数。
湯澤 一比古(写真後段左)
1953年東京生まれ。外食企業客席係を経て、システム担当となる。2007年9月まで同社でシステム室長を務める。
株式会社廣告社ぶれいん 取締役 企画営業部長
出井商事株式会社 経営企画室 室長
miniSeminar(リテールビジネスのIT研究会) 発起人メンバー
NPO法人地域自立ソフトウェア連携機構 理事
オープンソースソフトウェア協会 事務局
Linixコンソーシアム 業務アプリケーション部会
主な著作は、「オープンソースじゃなきゃ駄目」
酒美 保夫(写真後段右)
外食産業向けシステム大手のセイコーインスツルメンツ株式会社に勤務して25年、業界初のオーダリングシステムをプロジェクトリーダとして立ち上げ、外食産業御三家をはじめ多くの店舗に採用され、業界認知を受ける。また、事業部長として常にビジネスを牽引し続けてきた。2003年12月、新たな外食産業へのソリューションを追求すべく、株式会社フォアサイトを設立する。