沖縄ブームによって全国的に認知されるようになった「泡盛」。独特の香りを持つ沖縄の酒と知られているが、実は、焼酎などの蒸留酒は泡盛がルーツとされており、日本の酒文化の源流でもあるのだ。今回は、沖縄唯一の総合酒造メーカーであるヘリオス酒造の協力により、泡盛の魅力や味わい方を改めて学び、外食店で効果的に活用する工夫をお届けしたいと思う。
ヘリオス酒造は、1961年のラム造りからスタートしている。創業者である松田正氏が数ある酒類からラムを選んだのは、「 食料難が来た時、五穀に頼らない酒が必要になってくる。幸い沖縄には基幹作物であるさとうきびがあるのだから、それを使った酒を造ろう 」 という考えが基本になっている。もともとが洋酒メーカーであることは、他社との大きな相違点だが、これが後に特徴的な泡盛 「 くら 」 を生むことになる。社名のヘリオスは、ギリシャ神話の太陽神を意味する言葉。もともと太陽醸造として創業、そこで造っていた「HELIOS RUM(ヘリオスラム)」のブランド名を社名に採用したのである。
ラムにはじまり、泡盛、ウィスキー、リキュールなど各種酒類を作っているが、これは時代のニーズに応える酒造りを進めた結果。現状の商品ラインナップは、泡盛・ラム・リキュール・ビール・発泡酒となっている。泡盛は後述するとして、各製品の特徴を簡単に紹介すると、まず 「 ヘリオスラム 」 は、創業時の味わいをそのままに現在に伝える歴史ある逸品。南国の雰囲気を感じさせる味にファンが多い。リキュールとしては、パイナップルやシークヮーサーなど沖縄特産のフルーツを使った 「 沖縄フルーツ倶楽部 」、ラムをベースにして高い抽出度と旨さを誇るハブ酒 「 うるま 」 がある。ビールは副原料を一切使わない麦芽100%のもの。イギリスタイプの Pale Ale (ペールエール)、ドイツタイプの Weizen (バイツェン) などを販売している。ビールの味わいのバリエーションとなる発泡酒では、名産のゴーヤーを使った 「 ゴーヤーDRY 」 がある。なお、ウィスキーについては現在流通している商品はないが、工場内に貯蔵されているものがあるとのことで、将来的な製品化に期待したいところだ。
泡盛の製造は1979年から。地元の酒を造りたいという意向が兼ねてからあり、社長の代替わりをきっかけに事業化することになった。同社の泡盛製造においては、他に見られない数々の特徴がある。まず、先進機器を積極的に取り入れることで、合理的・効率的な生産を行うとともに、 本当に大事な局面においては職人の経験が存分に活かされ、技術と技の融合が果たされていること。泡盛造りに初めて銅製蒸留機を導入したのもヘリオス酒造である。最大の特徴となっているのは、熟成させる容器が3種類に及んでいることだ。伝統的な方法である土で作った甕(かめ)による熟成、現在最も一般的な手法であるステンレスタンクによる熟成、そして樽を使った熟成である。
事業開始当初は樽熟成はなかったが、やはり洋酒を売る樽熟成の技術を泡盛に活かせないかと研究を続け、その結果、1991年に樫樽によって華やかな香りとまろやかな味わいを持つ 「 くら 」 が誕生したのである。沖縄本島北部の名護市にある本社工場には貯蔵庫が2つあり、「 一の蔵 」 には約600樽、「 二の蔵 」 には約2000樽が 「 くら 」 の原酒を常に熟成させている。樫樽は木材の性質が火入れの具合によって、樽ごとに個性があるため、熟成にもそれぞれの特徴が出てくる。それらを “ 五感の記憶 ” をもとにブレンディングして、古酒 「 くら 」 は出荷されている。
伝統的な甕熟成では、熟成のメカニズムへの探求心から、甕を焼く登り窯まで自社で造ってしまっている。 5年熟成の古酒 「 主(ぬーし) 」 などの酒器は、この窯で焼かれたものだ。これまで甕について研究はほとんど行われていないのが実情である。そのような中で、同社ではいち早く甕の科学的分析に目を向け、土の分析から取り組み、自社で甕の製造まで行っているのである。
膨大な時間が掛かるかもしれないが、こういった地道な作業が、伝統と新しさを兼ね備えた泡盛の誕生に欠かせないことなのであろう。
ヘリオス酒造株式会社
http://www.helios-syuzo.co.jp/
1961年に沖縄の基幹作物であるさとうきびを使ったラム造りからスタートした沖縄唯一の総合酒造メーカー。'79年から泡盛の製造を開始、'91年にはラム造りで培った技術を活かした樽熟成泡盛「くら」を発売、沖縄県内はもとより全国的な人気を得ている。マーケティングリサーチを重視した姿勢により、時代のニーズや生活者マインドに適した商品開発や販売促進を推進している。
取材協力 ヘリオス酒造株式会社 マーケティング本部 取締役本部長 松田あすか氏
文: 貝田知明 写真(人物):トヨサキジュン