夏から秋にかけて、飲食店で気を付けなければならないのが食中毒です。各店舗でルールをつくり、気を付けるべき問題ですが、現実的にはどのような衛生管理をすればよいのでしょうか。近年話題の手法「HACCP」と日本独自の食文化を守る観点から、外食店舗における日本での衛生管理の理想像を考えてみます。
手や指のキズ・アレなどの膿みに含まれる黄色ブドウ球菌は、熱を加えると死滅するのですが、菌が出した毒素はそのまま残ってしまうそうです。また、卵に多く見られるのがサルモネラ菌です。これは、鶏の腸にいる菌で、卵を産むときに付いて出てきてしまいます。ごくまれに、インエッグという、中に菌が入っている場合もあるそうです。ある大手の宴会施設では、ダンボールで数百個の卵をまとめて仕入れたら、すべて次亜塩素酸ソーダにつけて殺菌して、各厨房に分配するようにしているそうです。
サルモネラ菌に限っては、100%大丈夫というわけではないですが、火を通すことが殺菌につながります。しかし、すべての菌を店舗で殺菌することは難しいでしょう。基本は、冷蔵庫にしまって温度管理をして、増やさないようにすることです。サルモネラ菌も低温では繁殖しません。産まれたときから付いている可能性があるので、持ち込まないようにするのは難しく、まずは、増やさないことに注力をすべきです。
私もこの話をきいて、生卵を食べるのが怖くなりましたが、専門家によると消費期限内であればまったく問題ないそうです。『衛生管理ハンドブック』の監修をしていただいた共立薬科大学の中村明子先生がおっしゃっていましたが、「物を食べるという行為は、必ずリスクを伴うに決まっている」のだそうです。危険性がまったくない食べ物は、この世に存在しないという前提で、人間をはじめとする生物は生きているのです。
とはいっても、病院や小学校のように抵抗力が落ちている人、もともと抵抗力が低いという人が集まるところでは、衛生管理は徹底しなければいけません。 HACCP を導入してところも多いはずです。病院では、それぞれの患者さんに応じ、抵抗力が落ちている前提で食事を提供しますから、生卵は出さずに固めの目玉焼きにするなど徹底しているでしょう。しかし、美味しいものを提供する飲食店となると考え方の根本が違います。そこまでやる必要はありませんが、食中毒が起きないように提供する姿勢は絶対に必要です。
他にも、直接食材に菌が付く以外に、ネズミやゴキブリなど媒介者がいる例もあります。ダンボールを厨房に持ち込まないというのは、ダンボールのすき間にゴキブリの卵が入っていることが多いからなのです。ネズミは、駆除しなければいけませんが、入ってくるのは防ぎようがない面もあります。一度駆除すれば OK というものでもないですし、自分の店が駆除しても隣の店舗から来るかもしれないですから。しかし、それを仕方ないで終わらせてはいけない問題でもあるのです。極力残飯を残さずに清掃を徹底するのも大切なことでしょう。
「持ち込まない、付けない、増やさない、殺す」の四原則が、飲食店における標準的な衛生管理といえます。手洗いに関しても、トイレに行ったあとは、二回手を洗うことを徹底する必要があります。一度目は汚れを落とす、二度目は食中毒予防のためということを覚えてほしいと思います。四原則を守った上に、食中毒・菌に関する知識と注意があれば、食中毒の危険性はかなり低く抑えることができるのです。
加藤 秀雄
1951年、東京生まれ。73年、日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、88年10月の創刊時から副編集長。91年9月から2000年7月まで9年9カ月間、編集長を務める。
2000年12月、フードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。2003年1月、ベンチャー・サービス局次長、同年3月1日付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任。2006年3月、日経BP社を退社。
98年4月から、女子栄養大学非常勤講師を兼務。2005年4月から、大正大学講師も兼務。