夏から秋にかけて、飲食店で気を付けなければならないのが食中毒です。各店舗でルールをつくり、気を付けるべき問題ですが、現実的にはどのような衛生管理をすればよいのでしょうか。近年話題の手法「HACCP」と日本独自の食文化を守る観点から、外食店舗における日本での衛生管理の理想像を考えてみます。
飲食店における衛生管理は、専門家の意見によると、「手洗い」がすべての基本になるそうです。それだけで危険性に大きな差が出てくるといわれています。厨房で調理する人だけではなく、提供するホールのスタッフもお皿などの食器に触れるので、スタッフ全員に徹底することが第一歩です。それから、食中毒を管理する三原則「付けない、増やさない、殺す」を徹底することが重要になります。
私は、業務用電化厨房の普及を図ることをテーマにした「電化厨房フォーラム 21 (主宰:東京電力)」に参加していますが、そこで、パートやアルバイトの方に、簡単に衛生管理を理解していただくための『衛生管理ハンドブック』を作成しました。
このハンドブックでは、三原則の前段として、“持ち込まない”を追加して、衛生管理の四原則と定義しました。まずは、食中毒の危険性があるものを厨房に持ち込まないことから始めようという考え方です。例えば、食材が入っているダンボールや土のついた野菜類などです。ノロウィルスなどに見られる健康保菌者も考慮する必要があります。菌は持っていても本人は健康だから、気がつかないうちに菌を持ち込んでしまいます。その人から感染が広がって、体調が悪い人、抵抗力が弱まっている人がいた場合に発症してしまう可能性があるのです。食材だけではなく、従業員による菌の持ち込みに注意しようという意味です。その上で三原則を徹底すれば、食中毒はかなりの確度で防ぐことができます。
「付けない」は、調理機器の洗浄・消毒であったり、肉や魚では菌が違うから器具を使い分けたり、保管方法に気を配るということです。
「増やさない」は温度管理が基本です。厨房の温度が上がりやすい季節は、調理したものを放置しないで、粗熱が取れたらすぐに冷蔵庫に入れます。細菌が好きな(繁殖する)温度帯というのがあります。そこを一定時間内で通過させてしまうと、繁殖しにくいのです。
「殺す」は、調理による加熱や冷凍保管で死滅させるということです。
特に、夏から秋にかけた時期は、厨房の温度が上がっているので一番繁殖しやすいのです。実は、先日自宅でカレーを作ったのですが、一晩でダメになっていました。ウェルシュ菌という食中毒の典型的な菌で、耐熱性があるため、煮沸しても生き残り、温度帯が下がると再び繁殖を始めます。カレーは常に火を通し、しっかり加熱しなければいけないのですが、それを中途半端にしてしまったのです。夕方に作ったもので、夕飯の時は安全だったのですが、再加熱しなかったために菌が増えてしまい、翌朝、温め直そうとしたらおかしくなっていました。菌にとって居心地がよい温度帯の時間が長かったのでしょう。鍋を開けてみて、表面がボコボコとしており、素人でもわかるほど腐敗していたからよかったようなものですが、気付かずに食べていたら自宅で食中毒にあっていたでしょう。こういう仕事をしている私が食中毒に対して疎かにすることもあるわけです…。驚いたし、悔やむばかりでした。
さまざまな料理がある飲食店では、生ものに比べ、火を通したものは安全だと思いがちかもしれません。しかし、中途半端な加熱は、かえって菌を繁殖させる可能性もあるのです。改めて食中毒・菌に対する知識を学ぶことも大切でしょう。
加藤 秀雄
1951年、東京生まれ。73年、日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、88年10月の創刊時から副編集長。91年9月から2000年7月まで9年9カ月間、編集長を務める。
2000年12月、フードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。2003年1月、ベンチャー・サービス局次長、同年3月1日付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任。2006年3月、日経BP社を退社。
98年4月から、女子栄養大学非常勤講師を兼務。2005年4月から、大正大学講師も兼務。