夏から秋にかけて、飲食店で気を付けなければならないのが食中毒です。各店舗でルールをつくり、気を付けるべき問題ですが、現実的にはどのような衛生管理をすればよいのでしょうか。近年話題の手法「HACCP」と日本独自の食文化を守る観点から、外食店舗における日本での衛生管理の理想像を考えてみます。
衛生管理の手法として、徹底的で信頼できる HACCP ですが、飲食店での導入はとても少ないのが現状です。元来、無菌状態の宇宙食を作るルールを一般の食材に当てはめたものといえますので、外食店より食材メーカーでの利用が適しているでしょう。飲食店の場合は、調理したものがすぐに提供され、消費されるので、危険性は低くなります。それに、衛生管理に対する考え方や手順はすばらしいが、白衣・帽子・マスク姿で食事を出してもらっても美味しそうに感じないように、すべてを実施するのは飲食店では難しいでしょう。
食の現場で導入しているのは、 2004 年に認証を受けた センチュリーハイアット東京 の例があります。厨房の大改造に際して導入したもので、結果的に衛生管理に対する厨房スタッフの意識も変わったそうです。これまでは、衛生管理に投資をしても儲からないという意見がありましたし、センチュリーハイアットもHACCPの認証取得を「売りもの」にはしていません。ただ、このような「姿勢」が衛生管理の水準を高め、食中毒事故の発生を防ぎ、消費者からの信頼を勝ち得ることにつながります。衛生管理が、金にならないという考え方は改めるべきでしょう。
飲食店での HACCP 導入を考えると、矛盾とはいかないまでも違和感を感じる側面があります。あくまで極論ですが、例えば、ハンバーガーに使うひき肉が食中毒菌に汚染されていたとしても、きちんと焼成温度と調理時間を守れば大丈夫と解釈できます。その時点できちんと加熱すれば菌が死ぬから、肉が汚染されていても関係ないと理解されてしまう可能性があるのです。本来なら、汚染された肉は使用してはいけないはずですが、 CCP (重要管理点)さえクリアすればいいという考えは怖いことです。
個店においては、 HACCP の考え方を参考にすべきでしょう。 HACCP の手法をまるまる実施していたら、メニューに困ってしまうことも考えられます。内側がロゼのローストビーフなどは提供できなくなるはずです。調理の前段で肉自体が安全と確認されているから、加熱のルールを遵守しなくても安全が確保できているのです。安全な肉をきちんと温度管理し、菌が繁殖しない状況を確保した上で表面に火を通す。ここまでの衛生管理、食材管理がきちんとされているから、中身が半生でも大丈夫というわけです。
飲食店で HACCP を徹底的に実施したら、美味しいものが出せなくなるだけではなく、それこそ日本の生食文化がなくなってしまうかもしれません。飲食店の場合は、 HACCP の考え方・手順のなかから、採り入れられるものだけ採用していくという姿勢で、いいのではないでしょうか。加藤 秀雄
1951年、東京生まれ。73年、日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、88年10月の創刊時から副編集長。91年9月から2000年7月まで9年9カ月間、編集長を務める。
2000年12月、フードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。2003年1月、ベンチャー・サービス局次長、同年3月1日付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任。2006年3月、日経BP社を退社。
98年4月から、女子栄養大学非常勤講師を兼務。2005年4月から、大正大学講師も兼務。