日本の食文化の発展に大きく貢献してきた食品サンプル。店頭に食品サンプルがあることで、消費者に対してどのような働きかけができるのか?その効果と理由を食品サンプル業界大手の「イワサキ・ビーアイ」の協力のもと、元「日経レストラン」編集長の加藤秀雄氏に探ってもらった。
飲食店と一般物販店の一番の違いは何だろう。それは物販店の場合、入店した人が店内を一回りして何も買わないで出て行ってしまう可能性があるのに対し、飲食店の場合は、入店した人のほとんど全員が、そこでお金を落としてくれることだ。飲食店では、お客に入ってもらうことがいかに大事かが分かる。
離れた場所にいるお客には、看板やのぼりが店頭まで引き寄せる効果を発揮する。次に店頭まで来たお客は、何を基準にして店に入るかどうかを決めるのか。まずは外から見て、自分の考えている価格帯か、食べたいメニューがありそうかを判断するだろう。中価格帯の店が、墨文字で店名などを隅に書いた、白くて長い暖簾を使ってはいけないといわれるのは、それだけで 「 この店は高そうだ 」 という恐怖感を与えるからだ。
味は入って食べてみなければ分からないから、これは判断基準には出来ない。ただ、メニューの写真やサンプルがあるだけで、大変な量の情報をお客に伝えることが出来る。特にサンプルは、食材や盛り付け、ボリュームを3次元で、さらにはシズル感まで、かなり正確に伝えることが出来る。
食品サンプルは実際のメニューをスケッチし、大きさを測り、型をとって作るもの。まさに原寸大モデルなのだ。このことを、消費者がどの程度認知しているかは疑問だが、店としては 「 うちの料理はこれです 」 と、胸を張ってお客に伝えていることになる。サンプルを置くことは、店の自信の表れといってもいい。
食品サンプルが持つ力は、店頭まで来たお客に入店を促すだけではない。サンプルケースを見たお客は、そこで注文するメニューを決めることが多いので、席に着いてから注文するまでの時間が短く、客席回転率が上がる。「 サンプルケースを置くようになって、売上高が2~5割上がった 」 と証言する飲食店経営者が多いが、これは入店率が高くなったと同時に、客席回転率が上がったことを示している。
また、日本語が分からない外国人客にも、サンプルは威力を発揮する。サンプルを見ることで、そのメニューを間違えることなく認知できるので、「 何が出てくるか分からない 」 といった恐怖感は相当減るはずだ。店側も、注文が理解できなければ、サンプルケースまで連れて行き、どれを注文したいのかを指差してもらうことが出来る。こうしたことは、外国人にはとても親切で丁寧な接客と評価される。実際、外国人客が多い観光地の飲食店からは 「 サンプルを置くことで外国人客が増え、接客も楽になった 」 という声が聞かれる。
全国展開するチェーンレストランで、「 うちはサンプルをおかない主義 」 という企業も、観光客や地域住民に外国人が多い店は、サンプルケースを置いて、その力を見てみるといいだろう。
同様のことは、他地域の人には知られていないメニューを提供する郷土料理の店や、「 今風のメニューや海外の料理・料理法が分からない 」 という消費者にも言えることだ。
食品サンプルは、店とお客の垣根を低くし、言葉の壁を乗り越える、日本独自の文化なのだ。
株式会社岩崎
東京本社 東京都大田区西蒲田8-1-11
創業 1932(昭和7)年
代表取締役 岩崎 毅氏
事業内容 営業品目食品サンプル及び一般模型の製造・販売・貸付、メニューブック・チラシ等販促印刷物の企画・制作、販売促進・店舗ディスプレイの企画、飲食店コンサルティングなど