原油の高騰、食料の高騰そして人件費の高騰と外食産業を取り巻く経済環境は日々厳しさを増している。更に乳製品、菓子などの賞味期限切れ食品、牛肉、鶏肉、うなぎなどの生産地偽装食材などといった消費者の期待を裏切る不祥事が社会問題化するなど飲食業従事者に逆風は吹き止まない。
外食産業の活性化のため、外食ドットビズは関係者の方々の考えを中心に、この様な厳しい環境下で飲食業に携わる方々に少しでもお役に立つ情報を発信していく事を目的に『シリーズ 食の危機を乗越える』と題し、不定期に掲載していく。
小麦、大豆などの穀物をはじめとした食料価格の上昇が、日本の台所を直撃している。特に穀物の価格の推移をみると、2年前に比べてとうもろこしや大豆は約2倍、小麦にいたっては何と約3倍にまで高騰をしている。今後の価格の見通しでもここ近年の記録的な高値よりはやや下がるものの、高止まりの状況は続くと見られている。
また、食料価格が高騰している理由には、新興国の経済成長や人口増加による消費増のほか、過去の食料危機の局面にはなかった原油価格高騰との連動や、気候変動、バイオ燃料の需要増、穀物市場への投機マネーの流入など複合的な要因が考えられている。
こういった状況を鑑み、本シリーズの第2弾は、フードプランナーとしてメニュープロデュース企画、店舗プロデュース企画などで飲食店に関わられている有限会社フード企画・141の石井千秋代表にメニュー開発の観点からこの食材高騰の時代(とき)を飲食店がどのように対応していくべきかお伺いした。
- 石井さんの目から現在の食材価格の状況はどのように映っていますか?
非常に上がっていますね。特にバター、チーズ、生クリームなどの乳製品が上がっていますね。今回、ある食品卸会社の展示会でパスタを中心としたメニュー提案を行ったのですが、これらは、欠かせない食材なのでイタリアンレストランなどは特に大変ですね。
ただ、全ての食材が大幅に上がっているのかというとそうでもないのです。もちろん原油の高騰のあおりで物流コストが上がっていますので、その分は価格に転嫁されてしまいますが、野菜や魚などの生鮮食品は余り上がっていませんね。
- この食材原価高騰の時代を、飲食店はどの様に活き抜いていったら良いのかお伺いしたいのですが。
一般的なことですが、頑張ってメニュー価格を据え置く戦略か、食材原価が上がった分メニュー価格に転嫁する、つまり値上げをする戦略かですね。大きくこの 2つが考えられますよね。
- まず、メニュー価格の据置き戦略についてメニュー開発の観点からお聞かせいただけますか?
戦略は 1つでも、手段はいくつかありますよね。一番簡単な方法は、食材の量を減らすという方法です。今までと同じ食材の量だけ調整するというやり方ですので、品質上は問題ありませんが、あまりお勧めできる手段とはいえませんね。例えば、先ほどのパスタの例ですと、メイン食材のパスタを100gで出していたのを80gにすると、お客様は量が減っていることに絶対に気付きますからね。見た目のボリューム感も食べた時の満腹感もなくなってしまいますから。
もちろん一部分のメニューであれば良いですよ。ただ、そのお店のメインの料理はやめた方が良いですね。お客様は敏感ですからね。お客様がそのことに気付いたら、途端にその店に対する満足感が無くなってしまいますから。飲食店にとってお客様の満足感が無くなることは大きなダメージですから。
ここで重要なのは、量を減らしても差支え無いメニューと差支えのあるメニューをきちんと見極めなければならないということです。
次に簡単な方法が代替品を使うという方法です。代替品と言えば聞こえが良いですが、要するに擬き(もどき)品を使うということです(笑)。例えば、普通のバターをコンパウンドタイプに代えたり、 パルミジャーノ・レッジャーノをパルメザンチーズ (パルミジャーノ・レッジャーノ風チーズ)に代えたりするというやり方です。この方法は絶対に勧めできません。なぜかというと品質が落ちるからです。価格は維持しても品質は落ちてしまうのです。普通のバターとコンパウンドタイプのバターのどちらが美味しいといったら、普通のバターの方が絶対に美味しいですからね。味が落ちた事もお客様は絶対に気付きます。味が落ちたらお客様は絶対に離れていってしまいます。「 あの店は、バターを代えて、油も代えて結局安いものに代えて価格を維持しているだけじゃない。」 と言われたら、結局客数は減っていってしまいますよね。絶対にやってはいけないことは品質を落とすことです。だから、そういう擬き(もどき)のものは絶対に使わない方がいいと私は思います。
- メニュー価格の据置き戦略は、手が無いということですかね?
そんなことは無いですよ。無かったらこのインタビューも終わってしまうじゃないですか (笑)。
先ほど、野菜とか魚は物流コストの分だけ値上がりしていると申しましたが、物流コストをかけない方法があるのです。それが、地産地消という考え方なのです。地産地消とは、その名の通り、“その地域で産出した物を、その地域で消費する”ということですから、物流コストがかからないという利点があるのです。
それと、地元で取れたものを地元で食べるのが一番美味しい。ということもありますね。ちょっと話が大げさになりますけれど、船の上で獲れたての魚料理を食べた事がありませんか?皆さん「物凄く美味い!”」て言いますよね。でも東京で同じように食べてもそれほど美味しくは感じないのですよ。同じ空気の中で、同じ海水を使って調理をするから物凄く美味しく感じるのですよ(笑)。更に言うと野菜もそうなのです。野菜も育った場所の水で調理をするのが、究極で言うと一番美味しいのです。例えば、埼玉県に深谷ねぎという有名なねぎがありますよね。深谷で育ったねぎは、深谷の水を使って調理するとより美味しく感じるのです。
話を元に戻しますと、もっと地元の野菜を見直しましょうというのが、食材価格の値上げに対する対策の一つなのです。わざわざ遠方から高い物流コストをかけて仕入れるより、地元の新鮮で美味しい野菜を使われたらいかがですか。地元消費をすれば、お金もかかりませんし、地元にお金を還元することもできますよね、というのが一つのご提案だと思っております。
次回は、地産地消を利用した具体例についてお話を伺います。
石井 千秋(いしい ちあき)
1982年 明治大学卒業後 株式会社柴田書店入社
編集・広告企画業務に携わる
1991年 企画フードハウス設立
2005年 有限会社フード企画・141設立
有限会社フード企画・141
http://www.foodkikaku-141.co.jp/
各種飲食店・宿泊施設のメニュープロデュース企画、店舗プロデュース企画、食品メーカーの販促及び営業戦略企画を主な業務としている。
大手FFSのメニュー開発等外食企業、中食惣菜企業、料理道具・備品メーカーのメニュー・商品開発コンサルなど多くの実務実績を持つ。