「外食産業は突破口を見出せない迷路の中にある。」
1つの産業において5兆円規模の売上が消失する過程には、なにか要因があるはずである。外食産業に携わる諸人は、縮小化の真っ只中に身を置きながら、 ぼんやりした不安を抱え、同時に「今何が起きているのかを知りたい。」という強い衝動にかられているのではないだろうか。
そもそも外食産業の強みとは何なのか。この迷路を抜けるために何が必要なのか。
草創期・成長期の社会変化にも焦点を当てつつ、そのヒントを探りたい。
ノウハウが無く、かつ意欲が足りない
年々飛躍的な拡大を遂げている“中食産業”。「食の外部化」が進む一方で、今まで外食産業が果たしていた役割が、急速的に中食に移行し始めている。市場規模が減少していく危機感の中で、外食企業も足並みをそろえて中食市場に挑み始めた。しかし成功例はまだ見えてこない。自分達が過去築き上げて来た「成功フォーマット」を超える提案はされていない。むしろ逆に弱点が露見され、新たな「競合」となった中食チェーンを、引き立たせるケースも見られる。顧客から見れば、外食産業が展開している中食事業には、どうしても“片手間感”が拭えない。答えは明解である。「ノウハウが無く、かつ意欲が足りない」と言う事である。問題点は次の通り。
(1)イートイン型ビジネスモデルから脱却できない
『デリバリー』については、イートイン商品に対して、「人件費」と「お届け」コストが上乗せされる構造で組み立てられる為、どうしても「高価格」になってしまう。また、「品質の保持」のノウハウも感じられない。
『弁当』は、既存商品での組み立てが中心になり新鮮さにかける。場合によっては食品メーカーの商品を、そのまま温めて提供されている。新たな「商品開発」技術が必須である。
『持ち帰り惣菜』では「食品の安全衛生」面での配慮が足りない。出来たて新鮮の商品提供ノウハウとは違うノウハウが求められる。
つまり、「離れた場所に食を提供する」と言う新たなノウハウは、今まで築いたものとはまったく異なり、それに関わる様々な技術が不足していると言う事になる。
(2)「極」小商圏マーケットに不慣れ
デパ地下や大型ショッピングセンター等の完全な大商圏フォーマットは別にして、基本的に中食産業は「小商圏フォーマット」によって成り立っている。ここに中食各社の技術と開発ノウハウが詰まっている。外食にとっては過去経験の無いマーケットに挑んでいると言う事になる。当然これは、食材の仕入・加工~物流~店舗調理~商品提供までの一連のモデルを、新しく設計し直し、新しい価値を創造しなくてはならない、と言う事に繋がる。
(3)食品の「安全衛生」と「品質基準」の不明確さ
(1)でも触れた様に、外食企業は今まで「来店されたお客様に商品を提供する」事が大前提で成り立っている。熱いものは熱く冷たいものは冷たく、高品質な商品を、如何に何時でも場合によっては誰でも出来る様に設計し、その為に厨房機器の開発もし、料理の提供時間にもこだわり続けてきた。 これはノウハウは外食企業の強みである。しかしこの膨大な開発エネルギーと同じくらい、またはそれ以上のエネルギーが「中食」に費やされているのか。特に「安全衛生」の観点では、イートインとテイクアウトでは完全に基準が異なる。外食が中食に挑む時、「安全衛生」と「品質」の基準作りを再構築し、明確化する必要がある。
(4)「負け組み」発想からの脱却
(1)~(3)を克服し、外食企業が中食産業に挑み、かつ、そこでの戦いの場で勝利するには、技術以前に「強固な意欲=志」が不可欠である。これは新業態の一つとか、一部門での業務と言った中途半端なものでは無く、トップを中心とした「新しいビジネス」への果敢な挑戦である。「今までのノウハウに+α」的な発想では戦えない。投入資金も人的資源も無駄になる。
強みを更に伸ばし、弱点は捨てる
外食産業再生への手掛かりは、何も新たな敵として浮上してきた「中食」への挑戦ばかりではない。時代時代で新しい価値を創出してきた外食産業は、もう一度「王道」での挑戦をすべき時期に来ていると認識したい。業績が下降線基調になると、自分達の業態が陳腐化してきていると思いがちであり、また、商品に対する不信感も芽生えてくる。その結果、新メニューの開発に力を注ぎ、新業態開発へ活路を見つけようとする。
市場規模が拡大している時はそれでいい。新しい業態が新しい顧客を生み、新メニュー提案によって、さらに客数が伸びる。市場規模が拡大をしていた1990年代後半までは、この論理で新しいマーケットが創造できていた。しかしこの間、各企業は自分達の既存商品や業態の磨き上げ(ブラッシュアップ)を忘れていた。その結果、新たな敵に市場を食われ始めてきた。
これは今まで「強い」と思っていた自分達の業態や商品が、新規の開発に力を注いでいる間に、弱体化していた事の現れである。従って、市場が他に奪われ始めたときに、同じ様に新規の商品や業態開発に力を注ぐという戦略は完全に逆行している。企業の「限りある資源」が分散され、経営構造の悪化を招く。さらに、無駄な食材や、業態の管理コストが増えてハイコストオペレーションとなってしまう。
ではどうするのか。「強みを更に伸ばし、弱点は捨てる」事である。自分達の主力業態を、もう一度再点検してみたい。これは今までの「基準」を見直す事だとも言える。食材の選定基準、物流方法、加工方法、更に店舗でのQSC基準、メニューブック(売り方)の見直し等、今のお客様の視点で再確認し、修整していく事をすべきである。
また、メニューもおそらくマーケットとのズレを生じているものが、過半数を占めているのではないだろうか。支持されていないものは、ばっさり捨てる勇気を持ちたい。主力商品の販売構成比を今の「倍」にすべく、本部と店舗の力を結集したい。キャンペーンの主眼も、主力商品の一点に集中させなくてはならない。
「自分達の顔」をもっとお客様に訴求させる事がキャンペーンの目的である。離れていったお客様や、見向きもされなかったお客様に対して、自分達の今の姿を知ってもらう事が重要である。
今の外食マーケットは何を期待しているのか
「お客様の立場で」「お客様の視点で」というコンセプトは、どの企業にも存在する。この基準にもズレが生じていないかも確認したい。価値基準はその時々で変化する。外食産業は、今までにない飲食業のフォーマットによって爆発的な支持をされた。価値の基準も「店舗」「出店場所」「メニュー価格・メニューの豊富さ」「業態」「サービススタイル」と、その価値の優先順位が変化をしてきた。今の外食マーケットは何を期待しているのか。更にこれからのマーケットスタイルは、どの様な形が形成されていくのか。
人口推移傾向での「少子高齢化」「核家族化」は歴然とした事実である。団塊の世代の方々が大挙して退職を迎える2007年問題は来年到来する。経済活動の第一線にいた方々が、一転して消費に大きな影響を持つようになる。また、段階の世代ジュニアと呼ばれている彼らの子供達が、消費者の中核を成し、彼らの価値観によって消費文化が創造されてくる。ITの進歩によって、仕事のやり方ばかりでなく、家族や仲間とのコミュニケーション手段や「家族」そのものの性格や価値も変化をして来ている。FR(ファミリーレストラン)1組あたりの客数が、創成期の3人台から2人台前半になり、場所によっては2人を割っているという事実は、「家族」(ファミリー)の今の姿を現わしている。外食産業の典型的なフォーマットであるFRも使命が終わりつつあり、新たな価値を創出できたところだけが勝ち残れる時代になってきた。
環境に配慮した商品作り
昨今の消費マーケットを表現する言葉に「LOHAS」( Lifestyles of Health and Sustainability ) という言葉が流行っている。「健康的な生活」に重点を置き、さらに「持続可能な社会生活」を望む生活スタイルの事で、アメリカでは成人人口の30%、約5000万人以上が「LOHAS」的生活を心がけていると言った調査結果もある。
日本でも「環境に配慮した商品作りに、真剣に取り組んでいる企業の商品を積極的に買う」層が圧倒的に増大している。つまり、過去流の顧客分析手法であった、性別・年代別・男女別・収入別・目的別と言った、カテゴリー分析では見えない要因が主流になってきていると言う事になる。 外食でいえば、「どの様なライフスタイルを心掛けているか」「何を基準にして商品(企業)を選択するか」といった、個々人の生活スタイルの中での動機に着目していかないと、戦略を誤る結果となってしまう。そのキーワードには「健康」「地球環境」「ゴミ」「添加物」「自然」(ナチュラル)「鮮度」と言った単語が浮かび上がる。
ニューフォーマットとして生まれたのが「ファストカジュアル」である
アメリカでは1990年代後半から、彼らの外食文化の主流であるFF(ファストフード)に対し、壮絶なまでの批判が展開した。「ジャンクフード」であるとか「成人病の原点だ」とか。この世論の批判によってニューフォーマットとして生れたのが「ファストカジュアル」(詳細は後日)である。
アメリカFF業界大手達は、自分達の非難対象である「食材」「調理方法」といった「反健康的」要因を排除し、「食材が見える」「調理過程が見える」売り方を取り、かつ自分達の強みである「チェーン展開手法」「加工~物流網」を更に活かす事によって、見事なまでに「ニューフォーマット」を築き上げた。このフォーマットはFF非難層ばかりでなく、従来のFF顧客層まで取り込んでいる。1997年外食市場規模がピークになって以来、残念ながら日本に「ニューフォーマット」は生れていない。
「食」は生活の基盤である。国民の「生活の豊かさ・楽しさ」の追求は今後も変らない。この命題をコンセプトとして、果敢に挑戦をしてきた外食産業の役割は、今後更に重要性を増してくる。時代と共に歩き、「価値」を提案してきた外食産業の、更なる「感動の提案」に期待したい。
坂尻 高志
外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長~事業部運営スタッフ~本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。