海外フードビジネス業界の視点を知る 第2弾 論説 ファストカジュアルに見るアメリカ外食事情 ~マーケットは新しいフォーマットによってのみ再構成される

海外フードビジネス業界の視点を知る 第2弾 論説 ファストカジュアルに見るアメリカ外食事情 マーケットは新しいフォーマットによってのみ再構成される

第2回 後編:ファストカジュアルに見るアメリカ外食事情(2)

マーケットは新しいフォーマットによってのみ再構成される

西暦2000年を目前に、低迷を続けていたアメリカ外食産業は転機を迎える。大手FF企業が “ファストカジュアル”を提案したのである。

ファストカジュアルによるニューフォーマットの特徴は次の通り。

  1. カジュアルレストランの商品価値をFFの販売形態で提供
  2. 料理提供時間は2~7分程度
  3. 小商圏に対応する徹底したメニューの絞り込み
  4. ランチだけでなくディナーもターゲットとする
  5. 食材の「安全」「安心」にこだわり、オープンキッチンスタイルで調理工程も見せる

決してフォーマット自体は新しいものではなく、それぞれのコンセプトは20年前から既に存在していた。地場で展開していたファストカジュアル企業群と大手FF企業が手を組んだことによって、コンセプトが明解になり、店舗拡大を達成したのである。それぞれが持っていた「強み」が結集して、新しいフォーマットとして生まれ変わった典型的な例である。

Baja Fresh
<Baja Fresh>

この写真は、2002年にウェンディ-ズが買収した“Baja Fresh(バハフレッシュ)”の店内である。カウンター上部には、『FOOD CANNOT BE MADE AT MICROWAVE SPEED』というテーマに、『NO CANOPENER』『NO FREEZERS』『NO LARD』『NO MSG』といった刺激的な言葉が並ぶ。
「食事は電子レンジのようなスピードではできません」というテーマで、「缶切りはありません」「冷凍庫もありません」「動物性脂肪は使いません」「うまみ調味料も使っていません」というコンセプトを表現しているのである。

パネラブレッドショーケース
<パネラブレッドショーケース>

マクドナルドも前述のボストンマーケットやメキシカンフードの“Chipotle”(チポートル)を買収、イギリスのサンドイッチチェーンの“Pret A Manger”(プレタマンジェ)も配下に収めるなど、積極的にファストカジュアルを展開する。

このような成功例は山程あるが、FFばかりではなく、カフェ業態でも“Panera Bread” (パネラブレッド)という好例が登場する。元々美味しいコーヒーとサンドイッチで名を馳せていた店だったが、アメリカ人の健康志向に応え、低炭水化物のパンを中心とし、商品のブラッシュアップ戦略を徹底した結果、顧客満足度調査で常に上位に位置する企業となった。同店のコーヒーの美味しさに着目したスターバックスが、そのコーヒーマシンを自社マシンに採用したのは有名な話である。

フィートグラス
<フィートグラス>

また、カフェではないが、フレッシュジュースのチェーンである“Jamba Juice”(ジャンバジュース)のレジ横のカウンターには、フィートグラスという芝のようなイネ科の植物が植えられ、注文すると摘み取って「青汁」を作ってくれる。ビジネスマンが気楽に立ち寄り、青汁を飲んでいる姿が結構目につくようになった。

 

カジュアルレストランからの参入組では、P.F.チャンズ・チャイナビストロが典型だろう。カジュアルレストランの中では知名度が高いチャイニーズレストランのP.F.チャンは、“Pei Wei Asian Diners”(ペイ・ウェイ)を2000年に開発した。
カジュアルレストランは、外食に於ける大商圏フォーマットの典型である。非日常空間を演出し、高い商品力が特徴になっている。だが、このフォーマットは規模の拡大には不向きである。大都市でも1~2店舗が出店の限度で、それ以上出すと自社競合に陥る。そこで、ファストカジュアルのフォーマット構築に目を付けた。P.F.チャンの周辺に、衛星店舗の形でペイ・ウェイを展開する事によって、「ハレの場」はP.F.チャン、日常の食動機はペイ・ウェイという店舗の棲み分けを明確にし、規模の拡大を狙ったのである。ペイ・ウェイはP.F.チャンの商品を絞り込み、ワインやビールも置いてディナーニーズの取り込みにも成功している。

PFチャン PFチャン
<PFチャン>

ファストカジュアルは、米国国内で成長性の高いフォーマットとして注目を集めている。そして、このフォーマットの支持層は、ベビーブーマー以降の「ジェネレーションX」「ジェネレーションY」といった世代であり、現代およびこれからの消費の中核を形成しようとする人々である。一定の収入が確保され、かつそれが継続可能な状況にあるという背景の中で、「車に乗らず地下鉄等の交通機関を積極的に利用する」「職場に近い所に住居を構え、時間を有効的に活用する」「プライベートタイムは自己育成のために使う」「地球環境に優しい商品、健康的な商品に対して積極的な購買動機を持つ」層で、外食に対しても彼らの価値基準が今後のスタンダードになって行くことは揺ぎ無い事実である。これこそ、以前の特集記事にも書いた「LOHAS」的生き方である。

アメリカの外食市場規模は約55兆円で、さらに拡大基調にある。日本で起きている問題は、アメリカでは既に解決に向かって動き出している。「内食」中心であった日本の食文化と、「外食」が中心のアメリカでは、その歴史の厚みが違う。売上が低迷状態にあるとコスト削減にひた走る(これも大切なことではある…)日本の外食産業と、絶えず競争原理の中で顧客獲得の拡大を狙うアメリカ外食産業との差がここにあるのだ。



 	坂尻 高志

坂尻 高志

外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長~事業部運営スタッフ~本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。

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