今年も“フードサービス”に特化した展示会であるHOTERES JAPAN(国際ホテル・レストラン・ショー)とFOODEX JAPAN/国際食品・飲料展が開催された。昨秋からの景気の悪化後、最初に開催された飲食業向け展示会をレポートした。
なお、海外の展示会情報についても福本龍太郎氏がレポートしているので、是非こちらもご覧になっていただきたい。
-HOTERES会場から-
HOTERESの会場では、OFSC研究会が「標準接続規格」の展示とデモによるプレゼンテーションを行っていた。
OFSC研究会は、飲食業経営の重要なツールである「情報システムの有効活用」「将来システムの研究」そして「会員ネットワークによる日々の課題解決」を主たる活動内容としている飲食企業とソリューション・サプライヤーによって運営されている団体である。
今回の展示・デモについて同研究会の酒美事務局長にお話を伺った。(以下、敬称略)
-「標準接続規格」とは、どのようなことですか?-
【酒美】 一言で言うと、メーカが違うテレビと DVDレコーダが接続されてもきちんと録画・再生できますよね。同じように飲食店で使用されているIT機器もつなげるようにしようということです。「標準接続規格」は機器間やサービスとのつなぎ方の仕様を合わせるということです。
外食企業の多くではPOS、OES、本部の販売管理システム・ASPサービスなどを使われていると思います。それぞれ多くのメーカやASPサービスがありますが、自由に選択することが難しく、たとえばA社のPOSを選ぶと、ASPサービスはB社かC社となっていると思います。これは、A社は、B社・C社としか接続の取決めをしていないからです。しかし、機器間やサービスのつなぎ方の標準、つまり「標準接続規格」があり、皆が合わせれば、テレビと DVDレコーダように制約はなくなり、メーカやサービス事業者の選択は自由にできるようになります。
テレビとDVDレコーダが、メーカを気にせず選べるのは、つなぎ方の標準があり、各社がそれに合わせているからです。
-具体的に飲食店にとってのメリットはどういうことですか?-
【酒美】 最近の外食企業の多くが、先ほどのお話したようなPOS、OES,本部システムと言った機器やシステムを導入しています。これらは単体でも機能しますが、全部がつながるともっと効果を発揮します。そして、それぞれ多くのメーカやサービス事業者があり、特長や価格を競い合っています。この中から、それぞれ自社のニーズに合ったものを、自由に選ぶことができるようになります。
また、「標準接続規格」を採用している機器やシステムは、ちょうどおもちゃのレゴ・ブロックのようになっていますので、継ぎ足しや一部を取り替えることが容易になります。老朽化したものだけ取替えるとか、自社の成長に合わせて、ITシステムを拡張したり、変更することが容易になります。
-そうなると逆に ITベンダー側にデメリットになるような気がしますが?-
【酒美】 それは違います。ITの企業の経営を考えると、システムに必要なものすべてを自社で開発するのではなく、得意分野に開発を集中することが必要です。1社が全てを開発すると大きな投資が必要になり、また時間もかかります。システムを組む場合、他社が「標準接続規格」を採用していると、他者が得意な機器やソフトウエアーをその企業から購入して自社のシステムに組込むことが容易になります。外食企業のニーズが多様化し変化している状況では、タイムリーにリーズナブル価格で供給しなければなりません。このためには、「標準接続規格」は非常に有効です。
また、「標準接続規格」は公開されますので、新たな分野企業とのつながりが生まれ、今まで考えられなかった事が起こる可能性があります。例えば、OFSCには、厨房システム分科会というグループがあり、厨房機器とITをつなげることを研究しています。オーダと連携して、厨房機器をコントロールすることができるようになります。特に、店舗のアイドルタイムではオーダに連携してまめに厨房機器をコントロールすることで 20%前後のエネルギー削減効果があることが報告されています。これにより、今注目されている、エネルギー削減(CO2削減)に効果を発揮できるようになります。大手外食企業では、改正省エネ法の施行に伴い、大変な関心事になると思います。お間お話したことが実現できれば、ITの利用価値は上がり、IT企業も新たなビジネスチャンスが生まれます。このようなことは、まだまだ多くありIT企業のビジネスチャンスは広がっていきます。
-最後に今回のデモンストレーションの概要についてお教えください-
【酒美】 OFSC会員のエプソン販売、東芝テック、寺岡精工、ソリマチ技研の各社に協力をいただき、『アプリケーションソフトは各社のもので、まさにインタフェースだけOFSC標準を使ってもOESが実現できますよ。』ということを実証しました。オーダ入力の端末は市販のiPodタッチを使用しました。また、メニューなどのデータは、同じくOFSC会員のドトールコーヒー、モスフードサービス、ケンタッキー・フライド・チキンの各社の協力をいただきました。
協力いただいたIT企業各社は、「標準接続規格」でデータをやりとりしており、たとえばOESの処理サーバ(コントローラ)は、どのメーカのハンディー端末がつながっているか、プリンタはどのメーカなど意識する必要がありません。
もう一つ、重要なデモがあります。iPodタッチと同じ「標準接続規格」のデータが、インターネット上の仮想世界・セカンドライフから送られてきます。実際には、セカンドライフはアメリカの西海岸にあるサーバ上で動いていますので、アメリカ西海岸からインターネットを経由してオーダが来るわけですが、iPodタッチから送るオーダがプリンタから打出されるスピードとほとんど違いがありません。これにより、最近の外食店舗の機器やシステムは、ネットワークでつながっていますので、必ずしも店舗内にすべてを置く必要はないということが分かります。例えば、オーダ端末とプリンタ・ディスプレイだけがあり、オーダ処理サーバ(コントローラ)は地球の反対側にあるということも可能になるわけです。これによってIT企業の製品企画の自由度やビジネスチャンス大きく広がると思います。
来場者の入りが悪く、閑散としているブースが多く見受けられたが、OFSCのブースはひっきりなしに来場者が出入していた。このように外食産業界の活性化のために、特に経営に関わることを具体的にプレゼンテーションすることで世間の耳目を集めていたのではないであろうか。
もう一つ感嘆したのは、事務局だけでは人手が足りないため、会員企業各社が説明員として参加していたことである。それもITベンダーのみならず外食企業の社員の方も参加していた。この様に業界関係者が一丸となって業界活性化のためという同じ目標に向った活動をしているということも多くの来場者を迎えた理由の一つではないだろうか。
今年の展示会を総括すると、やはり景気悪化による各社のコスト削減のため出展社数減、出展コマ数減、加えて来場者減になったことは明らかであると思う。しかしそれだけではなく、出展者、来場者ともに自分たちの期待するものが得られない、自分たちの持つ課題の解決策が見出せないと言う要因も大きかったのではないだろうか。
同じ展示会でもNRAとの差はこの部分が大きく、世界を相手にしているNRAでは、まさに各ブースが議論の場であったり、商談の場であったりしている。出展者側も来場者側もこの機会を逃したら二度と商談の場を作ることができないと言うような意識で参加しているように感ずる。
これに対し、日本の展示会の場合、とりあえずその場では名刺交換をして、数日後に電子メールや手紙で来展のお礼をするといった慣習のまま進んでいるように思われる。特に電子メールの発達した現代においては”とりあえず何かしらのアクションは起こした”という更にゆるい慣習になっていないだろうか。
多くの企業が一同に参集し、訪れる顧客の多い展示会は、情報収集の場、商談の場として最適なはずである。今後は更にOFSC研究会のように外食産業界の活性化のために具体的なプレゼンテーションを行う企業が増えてきて欲しいと感じた。
なお、この内容については、2月27日付けの 外食日報紙にも掲載 されているので是非ご参照願いたい。
文: 齋藤栄紀