インクジェットプリンターの「カラリオ」など、一般的にはコンシューマ製品のイメージが強いエプソンであるが、飲食業や流通小売向けプリンターなど業務用製品にも豊富な実績がある。POSに付属するレシートプリンター、オーダリングの一部であるキッチンプリンターにおいては、世界的な企業なのである。日本の飲食業における店舗システムがかかえる問題点を探りながら、エプソンの業務用プリンター事業に焦点をあててみる。
-飲食店向けのプリンターのラインアップはレシート用だけですか?
キッチン用のプリンターも手がけております。国内向けといたしましては、『 TM-T90KP 』 という商品を2010年8月に発売しましたが、欧米ではかなり前からキッチン用プリンターのビジネスを展開しております。『 TM-U200 』 というシリーズで、米国ではキッチンプリンターのスタンダードとして使われております。
-国内向けのキッチンプリンターの発売が遅かったのは、何か理由があるのですか?
キッチンプリンターの用途は、調理指示用の伝票を発行することです。ハンディターミナルなどで注文を受けて、その情報をキッチンプリンターで打ち出すもので、いわゆるオーダリングシステムの一部として使われることになります。日本のPOS市場もPC-POSの出現によりオープン化が進みましたが、オーダリングの世界はクローズ(解説1参照) な環境のままなので、いくら良い商品を持っていたとしてもなかなか参入ができなかったことが大きな理由です。
【外食ドットビズ編集部による解説1】"オーダリングの世界はクローズ"とは
日本の飲食店向けオーダリングシステムは大手数社でほとんどのシェアを占めている。このため、各社は独自の仕様でオーダリングシステムを構築し、それに使われるデバイス機器(ハンディターミナル、キッチンプリンターなど)も基本的に自社製品だけが使え、他社製品は使えない仕組みになっている。これは、オーダリングの各デバイス機器を繋ぐ仕様が独自であることが理由に挙げられる。
-クローズな環境でも、キッチンプリンターを出されたのはなぜですか?
日本でもオーダリングのオープン化(解説2参照) の流れが徐々に出てきているからです。例えば、当社だけではなく、オーダリング大手の会社も参加しているOFSC(※1) という団体が、オーダリングの各デバイス機器間を自由に接続できるようにするための標準規格を策定しました。『 TM-T90KP 』 はOFSCの標準規格に準拠したキッチンプリンターです。
もう一つの要因として、スマートデバイスの登場があげられます。iPhone、iPadやAndroid端末などをオーダーテイクに使う端末として用いたオーダリングシステムを開発するSI会社も増えてきました。iPhoneでオーダーを取り、当社のプリンターで調理指示を出すといったことが可能となりました。
【外食ドットビズ編集部による解説2】"オーダリングのオープン化"とは
オーダリングのオープン化は、各デバイス機器を繋ぐ仕様を標準化して公開することにより、さまざまなデバイス機器を自由に使えるようにすることである。例えば、市販のiPhoneなどのスマートデバイスをハンディターミナルとして使うことや他社の機器に変更できるなど、ユーザーの選択肢を増やすことで利便性を向上させ、導入コストも抑えられるようになる。飲食店向けシステムに関しては、一般社団法人オープン・フードサービス・システム・コンソーシアム(OFSC) (※1) が標準規格を策定している。
※1 OFSC・・・米国小売業協会(NRF)傘下のARTSとアライアンスを組み、飲食業に関わるシステムの標準化を目指している団体
エプソン販売株式会社
代表者 平野精一
本社 新宿区西新宿6丁目24番1号 西新宿三井ビル24階
設立 1983年5月20日
事業内容 情報関連機器卸売(プリンター、カラーイメージスキャナー、パーソナルコンピューター、液晶プロジェクター、パソコンPOSシステム、各種ミニプリンター等)
取材協力 BS・SD営業部 部長 細川雅弘氏
1962年生まれ。1988年エプソン販売に入社。
大手メーカーSierを担当する営業部門に所属し、アライアンスビジネスを構築する。現在、外食産業を含む特定業種に特化したビジネスを推進。業務用の小型プリンター(レシート・キッチンプリンター・ラベルプリンター)等の積極的な販売を促進している。