エプソン販売株式会社主催のビジネスセミナー「第9回店舗経営戦略フォーラム」において、「お客さまに真の楽しさ・豊かさを提供しつづけるためのシステム作りとは…」と題したパネルディスカッションが行われました。外食コンサルタントで当サイト論説主幹でもある坂尻高志氏をコーディネーターに、情報システムベンダー企業の皆様をパネリストに迎え、売上確保から客数増大につなげるシステム構築について掘り下げたディスカッションの内容をエプソン販売株式会社様のご協力により公開いたします。
齋藤●
システム構築の目標の共有化という問題ですが、宮川さんの体験談をお願いします。
宮川●
発言する順番が最後だと何を言っていいのか分からないのが正直なところですが、店舗と本部は、お互いに意見が違うものです。本部の方は「もっと稼げ」、店舗は「もうちょっと楽をさせてほしい」。これをひとつの仕組みにまとめることは難しいと思います。
私の体験したケースですと、直営店で伸びていくところに関しては、月に1回位に行われる店長会議などに私どもも参加させてもらって、中立的な立場で、本部と店舗それぞれの思いを聞いて、仕組み提案させてもらっています。一番困るのは、やはり FC展開しているところですね。ここ2~3年、店舗数が頭打ちの企業もあります。
新しい仕組みを提案するにあたって、FCのオーナーさんに会いに行ってどういう仕組みがいいか聞いてみました。やはりFCですから、本部からはこれだけを売れと言われていても「これだけじゃ商品力がいないから、うちはこういうものをやりたい」とか、「そろそろFCを抜けるから」なんていう意見ばかり出てくるのです。揚げ句の果てには、「抜けるけど、次はどこのFCがいいかな?」なんて逆に相談を受けることもあります(笑)。
結局、本部としても何をやっていいか分からない、店舗も本部は大丈夫なのかと思ってしまっているわけです。このような話をするのは、実はその会社に弊社のシステムを納入できなくて、他社に取られてしまったからなんですが(笑)。
齋藤●
みなさんのお話を聞いていますと、本部と店舗、システム担当者とシステムベンダーのギャップが問題のようです。最初のテーマとも関わってくると思いますが、やはり経営課題を見据えた上での経営者の参画が必須な気がします。
坂尻●
どれもよくある話で、私は悪のスパイラルと呼んでいます。明確な目標のはずが、目標ではなく手段になっているということです。これから 300店を目指そうとか、この数値をこうしたいという目標があった場合、それを達成するための課題がいつしか企業全体の目標にすり替わってしまっているのです。情報の共有化であるとか、マスターの一元化がどうだとか、全店にパソコンを入れようといったことは、目標に向けた手段だと認識しないと目標がブレてしまうのです。ITの課題を経営課題だと考えているトップはいやしません。「御社の経営課題は何ですか?」と聞いて「マスターが一元化されていないこと」と返ってくることはありえない。手段と目的を明確にできないときに、ギャップになってくるわけです。
ベンダーの方たちは、いろいろな機能を詰めてきますが、詰めれば詰めるほど経営課題から逸脱されたものができあがってくる恐れもあります。最終的には、どこの企業もトップが投資の判断をしますが、現場で決定したことをトップにひっくり返されて、数ヶ月間の労力が無になることもよくある話です。これは、お互いに不幸なことです。これが積み重なってくると、企業のトップはベンダーに対して役に立たないと思ってしまう。これがスパイラルになってくると、どこもおもしろくないし、コストと時間が無駄になるだけです。
私がシステム管理者の時、ベンダー企業のトップが自社の経営トップに会いたいといってきたら、天気とゴルフと売上の話だけはしないでくれと言うようにしていました。それだけで1時間過ごして握手して終ってしまうケースがある。そうではなく、もっと自分たちのやりたいことをぶつけて、きちんと商談ベースで意志疎通ができるようにしてくれれば、目標がブレないように思います。
それから、IT化することは、決して楽にする仕組みじゃないということを理解すべきだと考えます。店長を楽にさせる仕組みなんて、少なくとも私は作ろうと思ったことはありません。仕事の質を変えてもらうものだと思います。もっとオペレーションの能力をつけてもらう、食品の管理をもっときちんとやってもらうなど、逆に作業が厳しくなるかもしれません。
コンピュータをたくさん入れたが楽になってないとよく言われますが、なるわけがないですよ。技術が進むというのはそういうものです。例えば、大阪に打合せしに行くとしたら、昔は一泊が当たり前でしたけど、いまは一泊するなんて考えられないでしょう。便利かもしれないが、決して楽になったわけではないですよね。メールだってどこにでも飛び込んでくるわけですから、常に仕事のことを考えざるをえない。
IT化をすることは、人々を楽にするのではなく、仕事の質を変えていくことだときちんと社内で議論をしておかないと、誤解とギャップが生まれてくるのではないでしょうか。