シリーズ 食の危機を乗り越える-外食産業が進むべき道とは- 新春座談会「食の安全と安心を考える 加藤秀雄×堀田宗徳×坂尻高志

シリーズ 食の危機を乗り越える 外食産業が進むべき道とは-新春座談会 食の安全と安心を考える

外食ドットビズでは、厳しい状況にある外食産業のために、業界関係者や有識者のさまざまな意見を掘り起こして、少しでも活性化に役立つ情報を発信する目的で『食の危機を乗越える』をシリーズ化している。(過去の特集一覧はこちら

2009年の初回は、中国産冷凍餃子中毒事件を皮切りに“食の安全”にまつわる問題が昨年多発したことを受けて、外食産業の活性化に欠かせない「食の安全・安心」に関する座談会をお届けする。過去に発生した事件や事故を例に挙げ、フードジャーナリストの加藤秀雄氏、フードアナリストの堀田宗徳氏、外食ドットビズ論説主幹の坂尻高志氏の意見から、原因や背景の分析とこれからの対応策について提言したいと思う。

第3回 罰則強化ではなく、良心や信頼関係から食の問題を考えるべき!

第3回 罰則強化ではなく、良心や信頼関係から食の問題を考えるべき!

―― コンプライアンスの欠如やモラルの崩壊を防ぐには、食を扱う企業として何が必要なのでしょうか?

シリーズ 食の危機を乗り越える-外食産業が進むべき道とは-新春座談会「食の安全と安心を考える

【堀田氏】 企業が消費者の立場や気持ちになっていないことが大きな問題だと思います。極論を言うと人間関係の不信や社会構造の問題になるのではないでしょうか。たとえば田舎であれば、一日に同じ人と何度もすれちがうことがありますよね。言葉は悪いですが、衆人環視の社会にありますから、下手なものは提供できません。一方で大都会の人間関係は、「 二度と会わない人だから出しちゃえ 」 となっているわけです。でも、偽装する人が、他人から偽装されたものを受け取ったらどう思いますかね。「 あ、うちもしているから仕方ないね 」 とはならずに怒りますよね。仮に自分達が偽装していても、自分のところには偽装したものが回ってこないだろうという感覚もある。まさに、自分さえ良ければいいという自己中心主義が強くなりすぎているのだろうと思います。

シリーズ 食の危機を乗り越える-外食産業が進むべき道とは-新春座談会「食の安全と安心を考える【坂尻氏】 一連の偽装は、すべて構造が同じです。トップから指示が出ていたり、偽装の状況が分かっているのにトップが改善していなかったりしていて、結果として内部告発によって表面化する。大手企業は当然として、外食や食品を扱う会社が、自分たちの経営活動の社会的責任を意識しているかは疑問を感じます。

【堀田氏】 食の世界だけじゃないかもしれませんが、やはり、信義を持ってやりなさいということだと思います。相手の気持ちになること。

【加藤氏】 白い恋人や赤福などは例外ですが、偽装をやったところはほぼレッドカードで一発退場ですよね。それだけ消費者の目や姿勢は厳しくなっている。企業側としては、消費者への意識を徹底するしかないように思います。

――では、消費者がもっと目を厳しくすれば、偽装は防げるのでしょうか?

シリーズ 食の危機を乗り越える-外食産業が進むべき道とは-新春座談会「食の安全と安心を考える【堀田氏】 消費者の目はどんどん厳しくなっていますが、偽装は減っていません。偽装・不正を防ぐのは、提供する側の “人” の問題でしょう。食の世界に携わる上での良心でしかないわけですよ。それに期待できないとなれば、やってほしくないが、禁固刑など刑罰を与えるといった規制を強めることになるでしょう。あり得ないことですが、「 食に関わる偽装や不正をやったら死刑 」 となったら、絶対に誰もやらないですよね(笑)。

【坂尻氏】 確かにそうです(笑)。でも、食に関する不正は、下手をすれば何万人も殺してしまう可能性があります。そう考えると、厳罰化も不思議ではないと言えるかもしれません。

シリーズ 食の危機を乗り越える-外食産業が進むべき道とは-新春座談会「食の安全と安心を考える【堀田氏】 ウナギの偽装は、昨年の6月から7月に掛けて発覚しました。これから需要が高まるといった時に、そういう問題があると、まじめに仕事をしているウナギ卸業者にも多大な迷惑を掛けることになります。“ 自分の問題だけではないのだから、ちゃんとしましょうね ” と丁寧に言ってもダメだったら法的規制もあり得るでしょう。

――拝金主義や成果主義は、変えようがない面もありますよね。

【堀田氏】 企業は儲けちゃいけないという話ではありません。行き過ぎるとコンプライアンスが崩壊していくのだと思います。法的規制は、考え方のひとつで、実際にやるべきだとは思いません。ただ、これだけ頻繁に事件が起きて、これからも出てくるようであれば何らかの対応策を考えなければいけないでしょうね。日本人は、性善説に立っているのが一般的です。安全な物を食べさせてもらっていると信じたい。それが性悪説になってくると寂しいですよね。食の世界は信頼関係でつながっていてほしいです。

――お客様のためにやっているんだという意識を持つことが肝心ということですが、具体的にどうすれば偽装が減るとお考えですか。

シリーズ 食の危機を乗り越える-外食産業が進むべき道とは-新春座談会「食の安全と安心を考える【堀田氏】 そのためには、食の安心と安全は違うことも理解すべきです。安全というのは客観的な指標に基づくものです。ところが、安全であっても安心ではない場合があるわけです。個人的な考え方かもしれませんが、産地から消費者までの間が複雑であったり、物理的にも精神的にも距離があったりしたら、どんなに安全でも消費者は不安になるはずです。産地と近ければ近いほど安心を覚えるわけです。だからこそ、顔の見える食材が注目されるわけです。

【坂尻氏】 フードチェーンというのは、調達に責任を持つことであって、そこから消費者までの仕組みを作っていくというのが基本的な構造です。その途中途中が他人任せになっていて、産地ではなく商品調達先の企業名しかわからないなど、チェーン構造が形骸化してしまっています。これでは調達の責任を果たしていません。一定規模以上のチェーン構造を持っている企業は、自社だけではなく、取引先の商品内容まで完全に透明化すべきだと思います。大企業がそういうモデルを示さないといけないのではないでしょうか。



加藤秀雄×堀田宗徳×坂尻高志

加藤 秀雄(写真中央)

1951年東京生まれ。73年に日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、同年10月の創刊時から副編集長職に。

91年9月から2000年7月まで、9年9カ月にわたり編集長を務める。2000年12月にフードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。03年1月、ベンチャー・サービス局次長、同3月付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任する。06年3月、日経BP社を退社。98年4月からは女子栄養大学非常勤講師を兼務(08年3月まで)。05年4月から大正大学、東京栄養食料専門学校非常勤講師。

堀田 宗徳(写真右)

1957年生まれ。1989年に農林水産省所管の財団法人外食産業総合調査研究センター(外食総研)に研究員として入社。99年、主任研究員となる。05年から関東学院大学人間環境学部、尚絅学院大学総合人間科学部、07年から宮城大学食産業学部、仙台白百合女子大学人間学部で非常勤講師(フードサービス論、フードビジネス論、フードサービス産業概論、フードサービス事業運営論、食品企業組織論など担当)も務める。

専門領域は、個別外食・中食企業の経営戦略の分析、個別外食・中食企業の財務分析、外食・中食産業のセミマクロ的動向分析、外食産業市場規模の推計、外食・中食等に関する統計整備など。主な著作はフードシステム全集第7巻の「外食産業の担い手育成に関する制度・施策」(共著、日本フードシステム学会刊)、「明日をめざす日本農業」(共著、幸書房)、「外食産業の動向」、「外食企業の経営指標」(いずれも外食総研刊「季刊 外食産業研究」掲載)など著作も多数あり。

坂尻 高志(写真左)

外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長、事業部運営スタッフ、本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。 1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。

文: 貝田知明  写真:トヨサキジュン

ページのトップへ戻る