シリーズ 食の危機を乗り越える-外食産業が進むべき道とは- 新春座談会「食の安全と安心を考える 加藤秀雄×堀田宗徳×坂尻高志

シリーズ 食の危機を乗り越える 外食産業が進むべき道とは-新春座談会 食の安全と安心を考える

外食ドットビズでは、厳しい状況にある外食産業のために、業界関係者や有識者のさまざまな意見を掘り起こして、少しでも活性化に役立つ情報を発信する目的で『食の危機を乗越える』をシリーズ化している。(過去の特集一覧はこちら

2009年の初回は、中国産冷凍餃子中毒事件を皮切りに“食の安全”にまつわる問題が昨年多発したことを受けて、外食産業の活性化に欠かせない「食の安全・安心」に関する座談会をお届けする。過去に発生した事件や事故を例に挙げ、フードジャーナリストの加藤秀雄氏、フードアナリストの堀田宗徳氏、外食ドットビズ論説主幹の坂尻高志氏の意見から、原因や背景の分析とこれからの対応策について提言したいと思う。

第1回 社会や価値観の変化が、食の問題に質的な変化を与えている

第1回 社会や価値観の変化が、食の問題に質的な変化を与えている

――現代の外食業界への提言に先立ち、食に関する問題の歴史を振り返ってみたいと思います。まずは、 1950年代から60年代にかけて、公害や製造過程で混入した化学物質による食中毒事故の背景や原因について、ご意見をお聞かせください。

シリーズ 食の危機を乗り越える-外食産業が進むべき道とは-新春座談会「食の安全と安心を考える【加藤氏】 そういった食品事故は、産業の発展途上における問題だろうと思います。事故が起こるか気が付かなったのか、対応をしなかっただけなのかは分かりませんが、産業が高度化していく社会構造上の要因が大きいと思います。10年ほど前の中国・大連での話ですが、食品会社に 「 今、どのようなものが必要ですか? 」 と質問したら、「 添加物の工場がほしい 」 という答えが返ってきたのです。日本では、すでに食品添加物を除くことが課題になっていたのに添加物を入れるのが大前提でした。魚のすり身を貴重な動物性タンパク質として内陸部に送るために、合成保存料を使っていたのです。社会的なインフラが整っていない地域では、添加物で長期保存させる必要があります。その意味で、産業や社会の発展段階に起きてくる問題だと言えるのではないでしょうか。だからといって見過ごすわけにはいきませんが、インフラや技術の向上によって防げる問題だと思います。

――時代を進めて、 90年代以降に発生したO157などの細菌性食中毒事件について、堀田さんのご意見をお聞かせください。

シリーズ 食の危機を乗り越える-外食産業が進むべき道とは-新春座談会「食の安全と安心を考える【堀田氏】 O157をはじめとする病原性大腸菌は以前から存在していたもので、偶然この時期に被害者が出て注目されるようになりました。本来ならば、食の世界で食中毒は御法度です。それが表面化した原因のひとつには、認識・知識の欠如があったのかもしれません。食の安全と安心は、昔は行政サイドの規制によって守られていましたが、現在は企業の自己管理に移りつつあります。それをどのように考えていくかに対応策があると思います。

【加藤氏】 O157の端緒となった堺市の小学校には冷蔵庫すらなかったように、ずさんな管理態勢が横行していました。また、食中毒の原因分析が進んできたことも、この時期に多発した一因になっていると思います。いま勢いを強めているノロウィルスも、以前はお腹にくる風邪と病院で診断されていましたから。

シリーズ 食の危機を乗り越える-外食産業が進むべき道とは-新春座談会「食の安全と安心を考える【堀田氏】 その意味で、消費者が食の安全を身近に感じるきっかけになりました。それまでは、提供する側に安全面のすべてを委ねていました。昔から、事例としての食中毒は知っていたが、ことさらに意識するものではなかったのです。しかし、O157事件が発生して、食の安全や安心は自分たちで考えなければならないと認識を改めることになったのです。

――近年は、ヒ素カレー事件など犯罪的要素を帯びた食中毒事件も発生していますが、これも消費者意識の変化といったものが影響しているのでしょうか?

シリーズ 食の危機を乗り越える-外食産業が進むべき道とは-新春座談会「食の安全と安心を考える【坂尻氏】 食うんぬんの前に、人間的な問題があるかと思います。

【堀田氏】 ヒ素カレー事件というのは、地域の夏祭りで作ったカレーに混入されていましたが、そんなカレーに毒が入っているなんて誰一人として思わなかったはずです。これは信頼関係の問題です。誰が作ったものかと不信感を抱くようになったのは、食にとって不幸極まりないことです。



加藤秀雄×堀田宗徳×坂尻高志

加藤 秀雄(写真中央)

1951年東京生まれ。73年に日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、同年10月の創刊時から副編集長職に。

91年9月から2000年7月まで、9年9カ月にわたり編集長を務める。2000年12月にフードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。03年1月、ベンチャー・サービス局次長、同3月付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任する。06年3月、日経BP社を退社。98年4月からは女子栄養大学非常勤講師を兼務(08年3月まで)。05年4月から大正大学、東京栄養食料専門学校非常勤講師。

堀田 宗徳(写真右)

1957年生まれ。1989年に農林水産省所管の財団法人外食産業総合調査研究センター(外食総研)に研究員として入社。99年、主任研究員となる。05年から関東学院大学人間環境学部、尚絅学院大学総合人間科学部、07年から宮城大学食産業学部、仙台白百合女子大学人間学部で非常勤講師(フードサービス論、フードビジネス論、フードサービス産業概論、フードサービス事業運営論、食品企業組織論など担当)も務める。

専門領域は、個別外食・中食企業の経営戦略の分析、個別外食・中食企業の財務分析、外食・中食産業のセミマクロ的動向分析、外食産業市場規模の推計、外食・中食等に関する統計整備など。主な著作はフードシステム全集第7巻の「外食産業の担い手育成に関する制度・施策」(共著、日本フードシステム学会刊)、「明日をめざす日本農業」(共著、幸書房)、「外食産業の動向」、「外食企業の経営指標」(いずれも外食総研刊「季刊 外食産業研究」掲載)など著作も多数あり。

坂尻 高志(写真左)

外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長、事業部運営スタッフ、本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。 1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。

文: 貝田知明  写真:トヨサキジュン

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