有名カフェバーを皮切りに、ラーメン店、居酒屋をはじめとする多くの飲食店のデザイン・設計を手掛け、経営サポート業務にも乗り出している株式会社エイアンドティー.ティ(a&t.t)の上木草平氏。
上木氏が世に送り出した店舗は、いまや日本全国に広がり、それぞれに繁盛店となって成長を続けています。“繁盛の仕掛け人”という異名を持つ上木氏から、これから起業を目指す皆さん、現在個店を経営する皆さんへ、繁盛店を作る条件を伺ってきました。
僕は、32歳の時に独立して、店舗のデザイン・設計をおこなう エーアンドティー(a&t)株式会社 を設立しました。企業の下請けはしないという心構えで独立をしたのですが、それは、「 お客様と常に接していたい 」 という強い思いからです。ただ店を作るだけではなく、「 件数は少なくとも、お客様と直に接する仕事しかしない 」 と決めていたのです。
しかし、42歳の時にいわゆるバブルが崩壊し、5億円あった年商が、あっという間に1億4000万円にまで落ち込んでしまいました。その時に、これからは 「 なんでもやらないと受注できない 」 と思ったのです。事実、デザイン設計会社は、競合他社が多くて、叩き合いの競争になるのは目に見えていました。
では、叩かれない商売にするにはどうすればいいのか。その答えが 「 a&t に頼めば、いろいろな付録が付いてくる 」 という魅力を打ち出すことだったのです。物件探しから企画書づくり、金融関係からお金を借りるための手法や、料理の方向性や接客指導、業態コンセプトもすべて含め、ソフト面でバックアップをできる体制が整えば、個人店経営者のかたがたに満足していただけるのではないかと思いました。また、イチ経営者の立場では、 a&t を守るために a&t.t を作ったということも言えるのです。
個人店をバックアップする体制が必要だと感じたのは、施工の現場でいろいろな相談を受けていたからです。信じられないかもしれないのですが、現場で本当に 「 どんな料理をやったらいい? 」 という質問が来るんですよ。僕が多くの飲食店を手掛けていると知って相談して下さるのでしょうが、「 工事中に聞かないでよ 」 という感じですよね(笑)。今でこそ、業態やメニューを決めて、厨房をレイアウトするという手順が定着していますが、あの頃はひどいものでした。我々が工事をしている横でいきなり 「 炭火焼をやりたい 」 などと、思いつきで言い出すお客様もいました。
そういった刹那的な考えでなく、きちんと先を見据えた企画立案をし、方針や目的を明確にしていかないと、個人がひとつの飲食店を長く続けていく経営は、難しい時代になるのでは…? と思ったものでした。
a&t.t の現在のスタッフは、ほとんどが私のお客様だった人間です。いろいろな事情で、店を閉めたり、店を辞めることになったという連絡をいただいた時に、一緒に仕事をしようと誘ったのです。ですから、全員が飲食店の経験者、かつての繁盛店のオーナーや店長レベルのスタッフが集まっています。そういう実務部隊がいるわけですから、僕はお客様の人生相談係というポジションになる(笑)。つい先日も、店がうまくいっていない母親と、独立したがっている息子さんのお話を聞きに行きました。弊社で実質的なお手伝いができるかどうかは、その後のことです。だから僕は、お客様からのご相談には全国どこへでも交通費のみで伺っています。こうして現在、店舗のソフト面からハード面まで、言わば “ お店一軒丸ごと ” 支援できる体制は整っています。そうでなければ、立地の判断や今後の方針、業態、企画、接客指導など、幅広い知識とそれに見合う体験がなければ、責任を持ってお客様と接することはできませんからね。
上木 草平
1950年、石川県生まれ。1970年に東京の店舗内装会社に入社、84年に店舗の企画デザイン・設計施工を業務とするa&t株式会社を設立。一店一店、オーナーに合わせた店創りで数多くの繁盛店を生み出す。2003年には、物件探しや資金調達など初期段階から飲食店経営をサポートする株式会社a&t.t(エイアンドティー.ティ)を設立、日本全国に数々の繁盛店を誕生させている。
株式会社エイアンドティー.ティ 代表取締役