キリンビールといえば言わずと知れた日本有数のビールメーカーである。その歴史やシェア、またはプロモーション戦略などからコンシューマ向けのイメージが強いかもしれないが、外食企業や飲食店に対する取り組みにも長い伝統がある。今回は、キリンビールが現代の外食業界にどのようなビジネスを展開し、どのような展望をもたれているのかをレポートしてみたい。
営業マンの評価は、どれだけの利益を上げられるかにある。あえて他社製品を提案したり、“ キリンを売らずにキリンを売る ” という指針を持つキリンビールの外食営業も同じことだ。しかしながら、彼らの意識としては 「 利益はあくまでも結果 」 なのだという。お客様(外食店などに訪れる消費者)から多くの感謝の気持ちをいただいて付いてくるものであり、営業活動をやりきったからこそ出てくる結果なのである。それゆえに、彼らは外食の現場へ可能な限り出向き、動き回るという営業スタイルを徹底しているそうだ。「 これまでにお話しをしてきたように、外食店をはじめエリアに顔を出している回数など、最も街に密着しているのはキリンビールだという自負はあります 」(営業開発担当 主務 フードビジネス・サポートリーダー 鬼頭健氏)
営業マンの 1ヶ月の訪問件数は、多い場合には250軒に上ることがあるという。訪問スタイルも1分訪問や30秒訪問から詳しい商談などいろいろなパターンを用意しており、とにかく顔を出して、街の中にキリンを浸透させることを目標に活動をしている。消費者に一番近い飲食店にどれだけ出向くかが鍵というわけだ。そして、消費者に近づくことで、結果的に飲食店からキリンビールを選んでもらえることにもなる。「 どんなにいい商品であっても、いい企画を持っていても顔を見せないことには、ドリンクメーカーは選んでもらえません。我々は、飲食店の方に、何か困ったことがあれば連絡をくださいと常にお話ししています。セールスで解決できることもあれば、リーダーや支社を通じて解決することもあります。場合によっては、外食経営のネットワークを使って解決するような事例もあります。いずれにしろ、キリンに聞けば解決できるという構図をつくりたいのです 」(鬼頭氏)。至極当たり前の営業のようにも思えるが、シェアが高かった時代のキリンビールでは、こういった営業がなされていなかったのだそうだ。
外食の現場へ出向き、消費者に近づくことを徹底しているキリンビールでは、現在の飲物に対する消費者の嗜好をどのように捉えているのだろうか。そして、そのためにどのような営業を徹底しているのか、鬼頭氏にうかがってみた。
「 飲物に対する嗜好は、より質的なものに向かっていくだろうと思います。たくさん飲むというのではなく、自分の好みの飲物に対して質の高いものを求める。お酒を楽しむ時代に入っていくのだろうと思います。楽しむためにはどうしたらいいのか。生ビールでも本当にいい状態のものは何なのか?という観点から提供する傾向が強まる。奇をてらう戦略ではなく、質を上げていくことが重視される時代になっていくのではないでしょうか。消費者調査によって美味しいとされる味覚のデータを集め、それを設計して商品を作ったとしても、それだけでは売れない時代です。味覚に合ったからといってお客様が手を伸ばすわけではないのです。若い世代に顕著ですが、味覚だけでなく、飲むシーンが重視されているのです。弊社のスパークリングホップの CM等では、シャンパンに使うフルートグラスに入れて香りを楽しむといった提案を行っていますが、これは若い世代へ向けたシーン提案の一環です。味覚についても世代によって嗜好性があり、例えば、お父さん世代はクラシックラガーで、若くなるほど一番搾りが増えるなどいろいろあります。最近は、古典的な居酒屋が流行っていますが、だからといってベタなメニューにすればいいというものではありません。“ 若い人は瓶ビールにあまり手を出さないから、一番搾りの生ビールを定番にしましょう ” “ お父さん世代は瓶の可能性が高いからクラシックラガーにして、さらに中瓶なんて細かいものではなく大瓶を出しましょう ” と、ターゲットごとに響くものを提案するのが弊社のセールスの基本です。そのお店がどういう営業をしたいのか、どういうメニュー構成が向いているのかを分析して、ビールの酒類や容器、そして飲み方まで提案するのです。会社として、この商品を売りたいから置いてくれというスタイルではなく、相手の価値を考える提案をする。そして、価値の一番先にある、そこに来店されるお客様の価値を見据えた営業をしているのです 」
キリンビール株式会社
会社設立 : 2007年(平成19年)7月
会社概要 : 日本のビール産業の父と呼ばれるウィリアム・コープランドが、1870年に設立した最初のビールメーカー 「 スプリング・ヴァレー・ブルワリー 」 を起源とする草分け的企業。1907年に 「 麒麟麦酒 」 として発足して以来、長きにわたりビールシェアのトップ争いを繰り広げている。なお、ビール以外を含めた酒類の販売高は業界一を誇る。
昨年7月1日の持株会社化に伴い、キリンホールディングス100%出資による事業子会社のキリンビールとして改めて発足した。
経営理念 : 酒類事業の誓い「誰よりもお客様の近くに。そして、もっと豊かなひとときを。」
代表者 : 代表取締役社長 三宅占二(みやけ・せんじ)
取材協力 : 営業本部営業開発部 営業開発担当 主務 フードビジネス・サポートリーダー 鬼頭健氏
文: 貝田知明