外食店舗におけるホスピタリティは、企業ごとの思想や考え方がある。同じように、店それぞれの考え方があり、そこで働く人それぞれが異なる見解を持つものである。一概には正解が出せないからこそ難しいものであるが、正解がないからこそ、独自の魅力や価値を生み出すチャンスも秘められている。
今回は、オペレーション力に定評のある株式会社HUGE(ヒュージ)のケースを取り上げてみる。同社の「Cafe RIGOLETTO吉祥寺店」は、キッチンとホール の連携が高い顧客満足を生み出しており、2006年のオープンから激戦区の吉祥寺においても人気のイタリアンレストランとなっている。同店の日比野マネージャー(店長)と鈴衛チーフ(調理長)に同席をいただき、ホスピタリティに関するお話を伺うことができた。ホールとキッチン、それぞれの立場で同時に意見を聞かせてもらえる機会は貴重ともいえるので、店舗運営の参考になれば幸いである。
—ホールとキッチンの信頼関係が築かれていなければ、お客様からの特殊なオーダーに対応できないと思います。どのように関係を築いてきたのですか?
【鈴衛氏】 意見や考え方を言い合うことだと思います。
【日比野氏】 他のお店と比べようがないですが、そういったコミュニケーションは取っている方だと思います。一緒に働く仲間は自分にはない何かを持っていて、全員が尊敬できるスタッフだと信じることが第一歩だと思います。実際に、キッチンのスタッフにも朗らかで接客に向いている人が多くて、負けてられないと思いますから。
【鈴衛氏】 キッチン側から見ても尊敬できるホールスタッフが多いと感じています。自分にできないことをやってくれるわけですから、僕たちは全力で料理を作るだけでなく、大きな声で 「 いらっしゃいませ 」 と言うなど、できる範囲のことをしたいと考えています。
―キッチンとホールの関係といえば、「 キッチンは聖域 」 と主張してホールスタッフを立ち入らせないといった話をよく聞きますが、そういったことはなさそうですね?
【日比野氏】 聖域ですけど、チョロチョロッと入っていきますね。手が空いている時は一緒に仕込みをすることもあります。逆に、ピーク時にはキッチンのスタッフがパスタなどの料理をお客様へお出しすることもあります。テーブル番号はもちろん、レディファーストへの気遣いも分かっているキッチンスタッフばかりですから。
―なぜ、それができるようになったんでしょうか?
【鈴衛氏】 ホールが忙しければ、冷めないうちに食べてもらえるよう自分で運ぶというのは当たり前ですよね。最初からそういう考えを持っていたので、自然に身に付いたんじゃないでしょうか。
【日比野氏】 私たちがオープン時からやってきたことを見て覚えてくれたと思いたいですね。
【鈴衛氏】 嫌みなことを言わないようにしたことも一因だと思います。「 料理を早く持っていけよ 」 とか 「 そんなオーダー受けられねえよ 」 なんて、僕がひとことでも言ったら、キッチン全体の雰囲気が悪くなって、誰も自分で料理を運ぼうとしないし、特殊なオーダーを作らなくなってしまいます。マイナスというか、嫌な言い方をしないようと徹底してきました。
―そういったコミュニケーションに関するマニュアルがあるのですか?
【日比野氏】 そのようなマニュアルは一切ありません。ですから、各RIGOLETTOで対応方法もやり方も違うと思います。
【鈴衛氏】 社長が我々にお店を任せてくれているわけですから、それぞれ独自にいいところを出すよう努力しています。
【日比野氏】 レディファーストやワインをお注ぎするといった一定レベルのサービスは、RIGOLETTOグループとして足並みをそろえなければいけないので、きちんと教えていますが、キッチンの人が料理を出さなきゃいけないといったことに関しては、まったく決まりはありません。
―スタッフに対して、ホスピタリティという言葉を伝って教育や指導をすることはありますか?
【鈴衛氏】 最近は、口にした記憶がないですね。
【日比野氏】 私も使わないですが、自分達がやっていることが、「 おもてなし 」 や 「 ホスピタリティ 」 という言葉に相当するものと意識してくれているのではないでしょうか。このお店はありがたいことに、お客様として来店してからスタッフになってくれるケースが多くて、自分達が “ もてなされた ” 経験をしているのです。その経験があって、チームに入りたくなったという志望動機が多いです。だから、敢えて言葉で説明してなくても、自分がうれしかった体験をお客様に対して実践していて、それが 「 おもてなし 」 や 「 ホスピタリティ 」 につながっているのではないかと思います。Cafe RIGOLETTO
マネージャー(店長) 日比野友子氏
チーフ(調理長) 鈴衛将人氏
日比野友子氏(写真下・左)
神奈川県出身。学生時代から飲食店でアルバイトを経験、大学卒業後にグローバルダイニングに入社。06年4月、ヒュージ入社とともにリゴレット吉祥寺店のオープニングスタッフとして参加する。08年11月にアシスタントマネージャー、同年12月からマネージャー(店長)職に。
鈴衛将人氏(写真下・右)
埼玉県出身。高校卒業後に上京、居酒屋でバイトを開始。サーフィンが趣味で、夏場は伊豆の寿司屋、冬はグローバルダイニングでアルバイトという生活を数年続ける。グローバルダイニングの店舗で料理長を勤めた後、05年9月の設立とともにヒュージ入社、リゴレット吉祥寺店に勤務。2年目から料理長となる。