外食ドットビズで紹介するイベントとしてはおなじみになったFS/TECイベントの取材を行った。前回のレポート同様、NAFEMとの共同開催である。
本サイトのパートナーであるOFSC:オープンフードサービスシステムコンソーシアム(千代田区・事務局は、株式会社フォアサイト)の協力を得て、米国外食産業の技術的なトピックを一部でもお伝えできればと、また必死な私である。
不勉強な私は、前回の取材でようやくおぼろげながらFS/TECやNAFEMの活動を知ると共に、国内の外食産業IT化・標準化に取り組む企業の現状を知りえた。
本稿にて余裕があれば、インターフェース標準化をはじめ、その後着々と成果を出し続けているOFSCの活動についても、後ほど触れさせていただければと思う。
フロリダは遠い。あるのかどうか知らないが直行便でも15時間以上はかかるのではないだろうか…。我々はNY経由で実質20時間の移動時間をかけてオーランドへ到着。
我々が現地へ向かったのは、2月5日に成田を出発し、同日にケネディ空港でトランジットして、一路、フロリダへむかう行程であった。
この次期、米国東北部は異常な冷え込みで、JFKのモノレールでデルタへ乗り換える際、一瞬だけ外気に触れたが、言葉が発せないほどの、刺すような冷え込み
(-9℃!!)だった。
イベントの意義や雰囲気については、前回の記事でおおまか述べたものと大きく変わりはない。ただやはり、規模は縮小傾向にあり、若干来場客も減っているのではないかと心配してしまった。
※ 時間帯にもよるが、前回にくらべてやや来場客数に勢いがなく感じた。
というわけで以下、興味を引いた展示ブースからランダムにピックアップして考察を述べるというものすごく乱暴な手法でレポートのつじつまを合わせようと思う。
「 デジタルチェックイメージスキャナ付き高速サーマルプリンタ 」(長い・・。)なる製品が目についた。
下の写真は、 EPSON 社 のブースで見た製品だが、最初説明を受けた時は、恥ずかしながらその存在意義がまったく理解できなかった。
EPSON社ブース:
写真は 「 TM-H6000III with TransScan 」
後述するが、むろん日本では売られていない。
日本では耳慣れないかもしれないが、アメリカでは、「チェック」というものが文化としていまだに根強く残る。
小切手である。
ここではいわゆる個人小切手(Personal Check)を指すが、アメリカでは企業間の高額支払や給与支払、店舗での決済が、「チェック」で払うということがまかり通っている。
このチェックによる決済は現状でも、1日に3億枚近い処理量だという。
アメリカでは給与支払い口座開設すると、自動的に小切手(チェック)の束を渡される(らしい)。
チェックの束はその日から金額を書き出し、あらゆる支払いに用いることができる。
使った分のチェックの決済期日までに取引銀行に預金残高があれば、そこで決済完了というわけだ。
チェックを受け取った店舗は、そのチェックの裏にサインをして、自分の取引銀行に持っていく。その場で、チェックに記載された金額が銀行口座へ入金される。
個人小切手自体の仕組みについては、詳しく述べないが、受け取る側としてはものすごくリスクが高い。
小切手である以上、不渡りのリスクは当然だが、さらにはチェックを用いた決済の手間と換金までの利息損が発生することがあげられる。
小売店はチェックを受け取り、自分の銀行-購入者の銀行間を紙のままで、郵送で交換し、結果的に購入者の決済期日時点の残高不足で不渡りになるリスクの判明まで、相当の日数がかかるのである。
不渡りリスクが読みにくいうえに、判明した後に、強制的にその金額は銀行によって自動的に引き去られてしまう。
このとき、なんと受け取った小売店側も、不渡り手数料なるものを加算して取られてしまうのである。
あまりに(売り手にとって)不条理で、非効率で、非合理的なしくみだと思う。
珍妙な仕組みだが、アメリカのような、超合理的・超信用社会(のように見える)で、なぜこのようなことが広く普及したまま慣例になっているのかは、しっかりとした答えは見いだせていない。だれか理由を一言で教えてくれることを期待しつつ筆を先に進める。
調べるうちにさらに私がびっくりしたのは、この、(債権者にとって)非常に扱いにくい決済手段を、効率的に運用するために、小切手(チェック)紙幣を、デジタルイメージに変換してオンラインで銀行が受け取ることを認める ECC(Electronic Check Conversion)というしくみが法制化(2004年10月)され、施工され、店舗でも実用レベルになって、消費者にも認知されたことである。
しくみは大まかに…
これから初めて、通常の銀行間資金移動のような、電子取引が始まるのである。
↓ものすごくざっくりとまとめてみた。( PDF:136KB )
※ 写真載せておきながら全然説明していないのに気づいた・・(汗)。
先述した 「 TM-H6000III with Trans Scan 」 は、読み取って偽造検証 → イメージ化 → 高速サーマルプリンタでECC合意伝票発行・・という画期的な活躍をします。
・・・・なんのことは無い。紙で送る部分をオンラインに置き換えただけで、ECC自体は「電子化」の概念ではまったく前時代的な考えかたで運用されている。
確かに、このしくみによって店舗現場の効率化と、顧客の決済能力を明らかにする速度は向上したと思うが、 結果的に後ほど銀行からチェックが再印刷されて手元に届く という方法を採用している金融機関も存在するようで、これでは全く電子化の意味をなしていないと思ってしまう。(すべてがそうだとは現時点では言いきれないが)
一生懸命オンラインに乗せた証券情報が結局また紙に印刷されて戻ってくる 姿を思いうかべ、さらにそれを さも当然のように処理している売り手 を想像すると、滑稽に思えるが、これは「文化」に対応する行為であるということに気づいた 。
私が驚き、疑問に思ったのは、なぜ、チェックという制度の不合理(制度そのものへの疑問では無くリスクが発生しやすいその仕組み)を、ほとんどの企業が、是正を求めず、ECCという変な仕組みを受容しているのかということである。
さらに角度を変えて見るべき点は、企業があっさり、適応している点である。
「支払い能力が無くても買い物ができる」ということは、消費促進という意味では爆発的な威力があるだろう。
上記にあげたECC対応スキャナ付きプリンタが世に出るにあたり、巨額の研究開発費、幅広い分野の特許が用いられているはずである。そしてそれは素晴らしい技術によって実現し、アメリカの消費者は認知している。
日本でも、いろいろなサービス分野において、若干ネガティブな感触で「日本特有の商習慣に対応」ということが話題になることがある。
これを、無駄であるとは言えない。
アメリカという国が、個人消費に内包するリスクを減らすより、バイイングパワーの維持ということに目を向けているのではないかと思うことはできる。
当たり前だが、アメリカにおけるチェックの流通は、この点で重要な役割を担っている。
つまり 2001 年から 2004 年あたりか、当時、問題視されながらも、抜本的な対策で現状の好況にブレーキをかけるより、「小手先の改善」を取ったほうが良いというコンセンサスが、存在したのではないだろうか。
形成された消費文化は、消えず、その在りようを変えて居座っているのである。
あまり外食と関係ないことを書いてしまった。
次回もブースから。
乞うご期待。
福本 龍太郎
国内コンピュータ販社にて流通小売業界向けSI事業部門を担当し、外食店舗店舗システムにも関わる。
現在は有限会社ノーデックス代表取締役。
ネットビジネス黎明期より各種サービスプロバイダを経験し、業務システムへのネット技術の応用・普及につとめる。
有限会社ノーデックス 代表取締役
福本龍太郎の米国店舗視察 ラスベガス発 ~成長する砂漠のホスピタリティ~
福本龍太郎の速報!FS/TEC・The NAFEM SHOW2007
文: 福本龍太郎