またもやいきなり余談から始まる。
しつこいようだが展示会場は800近くのブースを有す広さで、1日ですべてを網羅しようとすると、どうしても雑な観測者で終わってしまう。
余裕があれば最低でも2日、じっくりと堪能すべきだろう。
会場内にはところどころ休憩スペースがあり、ピザなどの軽食を食べながら商談している人たちが結構いて、情報交換の場になっている。
展示ブース、カンファレンスも良いが、実はこのような場で、真剣な話し合いをしている場合も多いと聞く。
というわけで、できるだけ満喫するという勝手な理屈で、われわれも混ざる。
食事をしてから後半戦に挑むことにした。
昼食は会場内のケイジャン(Cajun)料理。編集長が「カレー」と言い張っていた。辛い。
会場に戻る。NAFEM(北米厨房機器工業会) との共同開催ということがあり、ハイテク厨房機器にも注目したい。前回稿で、サービスの自動化という面で KIOS 端末にフォーカスを当てたが、 The NAFEM Show との共同開催の趣旨は、店舗(またはセントラルキッチン)生産設備と、サービスの連動を十分に予感させるものであった。
NRN(Nation's Restaurant News)が主催する Kitchen Innovations Award については、昨年の NRA の取材で少し触れたが、厨房設備の革新技術と、サービス面の IT 化を同時に展示する試みは、非常に興味深いものがある。
馴染み深いマークも。鉄板焼グリドルの実演はもちろん試食あり。・・しまった・・。
「店」という概念は、その運営者にとって想像するよりも頑迷な価値観を植えつけてしまうものである。
誤解をおそれず述べるが、あたたかいものをあたたかく、つめたいものをつめたく提供するという観念は、チェーン店経営者から見ると、生産設備とサービス装置がいっぺんに分散化した状態の中で、非常に厄介な課題なのである。
チェーン店舗は、つねにこの課題と向き合う宿命がある。
アメリカの人たちは、どのようなケースもそうだが、企業活動が創出する利益基盤に、必ずリスクも同程度存在することを知っている。
HACCP、トレーサビリティなどの法令順守傾向については、米国企業の取り組みは真剣である。私の感覚で述べているが、正直意外な印象もあった。
NAFEM会場をひと通り見終わって、FS/TEC 会場へ再び。
視察メンバーの間では「おもしろ系」と呼んで楽しんでしまったが、重要なメッセージを受けたプレゼンテーションを紹介する。
わりとひっそりと展示してあって、独特のパフォーマンスを持ってわれわれをひきつけたのが、 Beverage Tracker の CAPTON 社である。
RFID Solutionと名打たれ、私がものを知らないせいであるが、物流か、非接触 ICカード関連の展示ブースかと思い素通りしていたが、最後に立ち寄ってみた。
そのしくみは言葉にすると単純で、よくある飲料保管用のボトルキャップに水道メーターと同じ理屈の電子流量計を極小化して搭載し、無線ICタグを取付けたものである。
どのボトルにも適用できるが、デモンストレーションでは、バーを模してあり、キャップを通過する酒の流量情報を、計測のたびに無線によりリアルタイムにサーバーに送信する表現が使われていた。
キャップ形状の流量計(無線ICタグ内臓)と、リアルタイムディスプレイ、無線レシーバー。
デモでは、わざわざ背面にディスプレイが設置してあり、ドリンクを注ぐたびに何オンス入ったかが表示されていた。
そんなに高い位置から注がなくても良い。後ろの兄さんがニヤニヤしてます。
酒の消費量をリアルタイムに、正確に把握する、ということについては、無論、大規模チェーンの所要量や税金の問題、従業員の不正使用など、個々の切迫した事情もあるかもしれないが、私は関心を持たなかった。
RFID を利用した CAPTON 社のアプローチは、「自動認識」「標準化された通信」の融合であり、「バルク情報の収集」の具体例であった。
日本では、RFIDといえば、大手物流現場か、すぐに頭に浮かぶのはSuicaなどの非接触 ICカードの普及であろう。
いずれも巨大企業の先導による莫大な投資と、周到な準備とによって普及している。
電子流量計も、RFIDも、そんなに新しくない技術である。
お兄さんがすごく明るく対応していたこともあり、冗談のようなデモであったが、滑稽さを感じるよりも、RFIDの利用の幅と可能性について、従来の技術の組み合わせによって表現した、非常に有用な一例だと感じたのである。
この記事を読まれる諸氏によっては、「なにを当たり前のことを」といわれるかもしれないが、厨房のIT化、係数化において無視できない問題が、環境の圧倒的な劣悪さである。
たとえば温度を計測し、記録する手段自体は、古くから食品衛生という視点でのシステムを研磨している米国では、あらゆる自動認識ソリューションとモデルが存在する。
HACCP方式を採用し、センサーを利用した個々のモニタリングとそのデータ活用は綿々と研究されつづけて、今日にいたる。
が、そのデータ収集方法はいまだに画一化されておらず、膨大な労力を現場に強いる。
どんなに小さな器具にでも搭載できる、低廉化した無線技術の普及とハイテク厨房機器は、このような状況に一石を投じるであろう。
厨房機器(設備)を取巻く通信技術として注目しなければならないのは、標準化の動きが活性化し、近年までアップデートが続けられているNAFEM Data Protocol(以下、NDP)である。
1999年より、MIB(Management Information Base)とSNMP(Simple Network Management Protocol)に完全に準拠(なので厳密に「プロトコル」と呼ぶには抵抗がある向きもある)して推進されており、NDP準拠の通信機能を搭載した厨房機器は、つねに自分の状態を、可視化できる形で配信できるようになる。
標準化された機器同士であれば、相互通信も可能であり、既存ネットワークを介して、厨房機器のスナップショット情報を遠隔から本部のサーバーに労せず集約し、平文化(可視化)も容易である。
現在では流通分野とも仕様の公開をすすめつつさまざまなデータモデルとの連携を加速している。
無線技術も先んじて視野に入れており、先見を感じずにいられない。
実は会期の後半で、NAFEMの活動についてようやく(本当にようやく)その本質的な部分を知り得た。今後の動向について、また別の機会に誰かが掘り下げてくれると勝手に信じている。
参考記事:http://www.fesmag.com/archives/2006/07/NAFEM.asp
ややこじつけ気味であったが、フロントサービスとバックヤード(ここでは厨房)を連携させる技術動向について、私なりの将来像を想像できたような気がする。
次回、ずたずたになりながら参加したカンファレンスの内容を抜粋しようと思う。
福本 龍太郎
国内コンピュータ販社にて流通小売業界向けSI事業部門を担当し、外食店舗店舗システムにも関わる。
現在は有限会社ノーデックス代表取締役。
ネットビジネス黎明期より各種サービスプロバイダを経験し、業務システムへのネット技術の応用・普及につとめる。
有限会社ノーデックス 代表取締役
文: 福本龍太郎