第5回
開店前一週間の作業 (2)

引渡し後、店舗が営業できる状態になったら、スタッフのトレーニングを実施します。トレーニング内容については、業態によって差はありますが、かなり専門的な教育が必要とされる時は、引渡し後では間に合いませんので、近くの会議室を借りるなど事前教育を実施してください。従って、開店前の店舗で行うトレーニングは、実践を想定した教育/訓練が中心となります。以前にも述べましたが、「 教育 」 とは 「 仕事の考え方や仕事・作業の目的 」 を教えることであり、「 訓練 」 は 「 正しい手順で、より早くより確実に作業ができるようにすること 」 です。
トレーニングは、基本的に 「 調理 」 と 「 接客 」 に分けて行います。特に、アルバイトの場合は、雇用契約時に職種が明確になっていますので、そのグルーピングによって教育/訓練を実施します。ポジション毎のトレーニングの前には、必ず 「 教育 」 を施してください。これから教える作業の重要性や目的・心構え等を教え込むということです。これが不明確のままだと、作業の質にもブレが出てしまいます。また、何か例外的な事が発生した場合でも、咄嗟の判断基準が曖昧になってしまいます。
訓練ポイントは、「 調理 」 グループは “ 正確にできること ” が最重要ポイントです。調理マニュアルに従って、正しい手順でできるように繰り返し訓練を行います。調理は、危険な行為が付き物です。普段使い慣れていない調理器具や調理機器を扱わなくてはなりませんので、スピードは二の次であり、まずは正しい手順を習慣化できるまで教えるようにしましょう。
「 接客 」 グループは、ロールプレイイング形式でやるのが効果的でしょう。ひと通りの訓練が完了したら、「 従業員役 」 と 「 お客様役 」 に分かれ、実際の接客シーンをシミュレーションし、双方で評価し合ってみるのです。接客の場は、クレームをはじめ想定できないケースの固まりです。なるべく多くの事例を体感することによって、本番でのプレッシャーを回避させてください。
トレーニングの重点指導のチェックポイントは、この章の前半で述べた 「 ワークスケジュール 」 です。それも開店から一週間のワークスケジュールをベースにして、個人ごとのスキルをチェックします。開店日は最強のメンバーで、かつ万全の体制で臨まなくてはなりません。トレーニングの後半は、絶えず開店当日の流れを想定した実践向きのトレーニングをしましょう。

それぞれの清掃作業については、マニュアルに記載された手順で実行できるようにすればいいのですが、クレンリネスについては「意識」も重要なポイントとなります。QSCの内、Q(品質) と S(サービス) は、お客様が店内に入らない限り体験できませんが、C(清掃:クレンリネス) については、お客様が外から見て感じ取れるものです。
窓ガラスが汚れていたり、駐車場にゴミが散乱していたり、また、入口付近が雑然としていては、せっかく来店されたお客様も食事を楽しむという意識が薄れます。もしかしたら、入店せずに他店に行ってしまうこともあるでしょう。つまり、その店のクレンリネスの意識の低さは、売上の機会損失にも関連してくるのです。
しかし「意識」というのは個人任せにしていては芽生えません。ワークスケジュールの回で説明したように、仕事に入る前に外回りチェックを習慣付けたり、上がる時にそのポジションで出たゴミを片付けたり、営業中のトイレチェックを全員で持ち回りしたりすることで、意識が高まっていきます。しかし、最大のポイントは経営者であるあなた自身の意識です。自分から行動を起こして模範を示さなければ、スタッフは付いてくるはずがありません。


外食産業は、「 教育産業 」 という顔を持っている。それまで挨拶ができなかった学生が、大手チェーン店でアルバイトしてから、近所の人にまで挨拶するようなることがある。また、パートの主婦が、家庭でも先入れ先出しを実践し、日付シールで食材管理をしはじめるといった例も山ほどある。教育を通して 「 習慣付ける 」 というのは、こういうことをいうのである。高い意識を持ったスタッフが揃った店は、お客様も自然と集まるようになるのだ。
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