第3回
飲食店のマニュアルとは(3)
「 マニュアル 」 という言葉と同様、「 標準化 」 も悪い意味に取られることがあります。相対する言葉に 「 個性化 」 があります。飲食店のような、食・サービス・食空間といった演出には、「 個性化 」 の方が、差別化要因として受け入れられるのかもしれません。しかし、飲食店運営は短時間勝負ではありません。営業時間すべてにおいて高度な QSCを提供し、さらには、それを長期間にわたって続けなければなりません。どの時間帯も手を抜けない真剣勝負の場ですから、「 標準化 」 の大切さがここに生まれるのです。
もし素晴らしいサービスを実践できるスタッフがいたら、そのエッセンスをほかの多くのスタッフに共有させることで、店のサービスレベルは格段に上がります。同じ作業を素早く完璧にこなすスタッフのノウハウも、全員ができるように訓練しなくてはなりません。飲食店の経営はボランティアではないので、適正な利益を確保しなくては意味がありません。多くのお客様に対して絶え間ない投資が必要です。2号店、3号店オープンの可能性も出てきます。利益を上げるには客数を伸ばすと同時に、生産性を向上させて行くことが重要なのは言うまでもありません。
マニュアルによる 「 標準化 」 は、客数増・生産性向上の両方を実現する手段となるのです。一人だけサービスが良いとすれば、その人にお客様は付きますが、店の評価にはつながりません。腕の良いシェフが料理を作っている時は良くても、その人が休みの日には、お客様を満足させられないかもしれません。店のQSCにバラツキがあると、確実に客数は減少していきます。

これは、標準化の工程を表わす 「 標準化サイクル 」 の概念図で、以下のような手順で進めていきます。
1.最良の方法を発見
手順・時間・状態などベストの方法を検証する。多くのスタッフに試してもらい、結果にブレが出ないように検証を繰り返す。
2.言葉・絵・数字で表現
最良の方法が検証できたら、それをマニュアル化する。言葉・絵・数値などを使って分かりやすくかつ明瞭に表現する。
3.教育・訓練の実施
マニュアル通りに実践できるよう教育/訓練を繰り返す。
4.実践行動
訓練してきたことを実際に行動させる。
5.慣習化
1. ~4. の繰り返しによって、例外が発生しないレベルにまで高めていく。
作業の標準化も、その道具となるマニュアルも、決して不変なものではありません。新しいアイデア、さらに最適な方法なども発見できて当然ですから、絶えず 「 修正 」 を加わえるべきです。この繰り返しで 「 改善 」 を行っていくのです。


標準化がうまく行かない原因は、「 目標や基準が不明確 」 「 検証がいい加減 」 の2つである。過去にはなかった食材の組み合わせの料理など奇抜なアイデアでも、単なる思い付きで終らせるのではなく、標準化サイクルによって磨き上げてこそ、他店と差別化できる 「 個性化 」 に変身するのである。
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