第4回
客席設計のポイント ~ 楽しい空間造りと生産性のバランス ~
これまでにも何度か述べてきましたが、飲食店の売上は、 [客数×単価]で決定されます。従って、初めての開業では、客数を確保するために必要以上の「客席数」を取りたがる傾向になります。図面上では、ゆったりとしたレイアウトに見える場合でも、実際にお客様が来店されると、意外と狭く感じるものです。せっかく楽しい空間を提供しようとしても、すし詰めの状態では、不快感を与えることになり、客数は確実に減少します。かといって、無駄なスペースばかりでは、売上の確保ができないばかりではなく、お客様にしても居心地の悪い食空間となってしまいます。
適正な客席数を設計する時の一つの目安に「満席率」という指標があります。これは、相席させない前提で、満席になった時に、客席稼働率がどのくらいかという数値です。例えば、 100席の店舗と仮定した時に、満席時の店内客数が80人であれば、満席率80%となります。もちろん高ければ高いほどいいのですが、実際にはそうはいきません。50~60%程度の店舗も多いのが実態で、これではピークタイムの売上は全く期待できません。
また、使われない席を「死に席」といいます。この「死に席」を無くすことが客席設計での重要な要素になります。それには、お客様の「食シーン」を具体的な形でイメージすることができるかどうかに掛かってきます。テーブルには、 2人掛け、4人掛け、6人掛けなど多種多様にありますが、 少人数での利用では、2人掛けテーブルを前提として、人数によって組み合わせましょう。また、家族を前提とするなら、4人掛けテーブルを多く用意したいところですが、「死に席」も発生しやすくなります。業態によっては、カウンター席や大きな丸テーブルも有効かもしれません。さらに、お客様のカバンや荷物の収容も考慮すれば、「死に席」は少なくなります。また、テーブルの広さは、メニューによって決まります。実際に使用する食器を使って、広さを決めましょう。
もう一つの重要なポイントは、「作業導線」の設計です。これは、人(お客様と従業員)の「動き」を設計することで、店舗設計では最重要項目だと言えるでしょう。お客様にとっては、絶えず自分達の後ろや横を他のお客様が通ったり、従業員の作業場所に近くて、声や音がうるさかったりしたら、せっかくいい雰囲気の店舗であっても台無しです。
作業導線の良い店と悪い店では、生産性にも大きな差がでます。導線の悪い環境では、どうしても従業員に負担が掛かり、退職率や事故発生率も多くなります。
また、通常 3人でできるサービスが、5人以上必要になるといった状況にもなり、最大コストである「人件費」に対しての影響も計り知れません。開店してからのレイアウト変更にも大きなコストが発生しますので、設計の段階で充分検討しておきましょう。
失敗しないためには、≪ 第2章 第5回 : 事業計画書を作ろう!~その3・FLコストと損益計算書~ ≫で説明した「ストア・コンパリゾン」(他店研究)が効果的です。同業の繁盛店や大手チェーン企業も見ておきましょう。オープンキッチンの店舗なら、お客様が入店されてから席に着くまでに、わざとその前を通らせて、美味しそうな食材や元気のいい調理風景を見せるという設計の工夫や、パーテーションの組み方ひとつで居住感を格段にアップさせるノウハウも発見できるでしょう。


ストア・コンパリゾンの目的は、「自社の問題発見とその課題の解決策を見つけること」。開店前も開店後も続けていくことが大切だ。施工前のストア・コンパリゾンでは、可能であれば、設計者に同行してもらって一緒に調査できれば、自分の考え方をより深く理解してもらえるだろう。その時は、内外装だけに目を奪われるのではなく、客席数と従業員の人数・作業分担・テーブルの広さ等も確認しよう。何もかもが大きなヒントになるはずだ。
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