外食ドットビズは、創刊よりこの業界の活性化のためには新しい風が必要と考え 起業家の方に向けてメッセージを送ってまいりました。この度、当編集部の責任編集による起業家向けのノウハウ集を発刊いたします。掲載期間が1年ほどの大作になると思います。社内外問わず起業家の方々にとって有意義なノウハウ集となりますので是非じっくりとご購読下さい。
前回の記事を読んで、「飲食店は大変な仕事かも…」と思われたかもしれませんが、夢を実現させるという大きな目標があるのなら、飲食店経営は「楽しい仕事・やりがいのある仕事」といえます。わざわざ自分の店に足を運んでいただき、家族や友人たちと美味しい料理を囲んで、楽しい時間を過ごしてもらうための空間造りが自分の仕事となるのであれば、一生を賭けてでもチャレンジする価値のある仕事となるはずです。
しかし、残念ながら、楽しい「食空間」を提供しているはずの外食産業全体の売上(市場規模)は、 1997年をピークに毎年減少の一途をたどっています。マーケティング分析の観点から考えると、その原因は次の3点に集約されるといわれています(詳しくは、別コンテンツの「迷宮にさまよう外食産業のこれから」をご参照ください)。
これから起業する皆さんの視点で、この3点を考えた場合、どのようなことに留意すればよいのでしょうか? 坂尻先生に解説してもらいましょう。
「中食」とは、調理済み食品を購入して自宅で手を加えずに食すこと、調理を伴わない食事形態の意味である。ここ数年の「中食産業」の伸びは顕著で、外食産業の売上低下分が、そっくり「中食市場」の伸びとなっている。つまり、外食機会が家庭内食事に戻りつつあるということであり、これまで「楽しさ・豊かさ」を提供しつづけてきた外食産業が、その使命を果たしきれなくなってきたともいえる。
「豊かさ」とは豪華な店作りのことではない。非日常的な空間であったり、自分が演出したい場面でのイメージが溢れていたり、なぜかホッとする空気が流れていたりする場である。要するに、初めての店舗は、「自分が毎日でも行きたくなる店、大切な人を連れて行きたくなる店」を目指すべき。自分の店の最高のファンは自分自身でなければならない。
今の消費者は鋭い選択眼を持っている。特に「食」や「物」に関しては、“健康志向”“地球にやさしい”という言葉がキーワードとなっている。生活の中で購入する場合は、多少高くてもキーワードに合致する物を選び、自分のライフスタイルに即した店を選ぶ。こういった消費者が中核となる時代である。
ならば、メニュー作りについても、原材料の選択から食器選び、盛り付けにいたるまで徹底的に追及し、こだわりを持ってほしい。“地域一番店”という言葉がある。同じ業態や志向を持った店が商圏内にあるのならば、彼らが太刀打ちできない店を作ってほしい。
意外かもしれないが、外食業界の「食」の安全・安心への取り組みは甘い。ここ数年、牛肉 BSE問題等を契機に、安全・安心を意識する気運が高まってきたという状況だ。トレーサビリティ(直訳すると追跡可能性。野菜や肉などの生産・流通履歴の意味)は日常語になり、大手外食店舗を中心に生産者表示や成分表示も一般的になってきた。飲食店を営む以上、このテーマには真剣に取り組まなくてはならないが、最も気を付けるべきことは、日々の作業の中にこそ存在しているのだ。
飲食店は、原材料もしくは加工品を仕入れ、店舗で調理してお客様に提供する。この調理段階が一番の問題である。店舗までは、管理された状態で配送されるのだが、店の清掃状況・調理器具の衛生管理・食材の保管状態によって、それが一瞬のうちに危険なものになってしまうケースがある。我々は“お客様の命を預かっている”という意識を忘れてはならない。「食」の安全・安心は、まず店舗の日常の点検が原点である。
外食ドットビズ編集部
外食大手のすかいらーくに20年以上勤務した後に外食経営コンサルタントとして起業した論説主幹・坂尻高志。
外食向けオーダーエントリーシステム(OES)を日本で初めて世の中に出し、現セイコーインスツルをOES大手に育て上げた後やはり外食経営コンサルタントとして起業をした主幹・酒美保夫。
外食ドットビズに携わる多彩な起業家経験者が、外食産業で起業を目指す皆様に起業家マニュアルをお届けいたします。