旬の素材を使った九州の郷土料理や各地の銘酒などをそろえた渋谷・宮益坂の「和ダイニング 美醤」を経営する和田孝志氏は、千葉ロッテマリーンズで活躍した元プロ野球投手という経歴の持ち主。現役選手の副業ではなく、引退後に1から飲食業を学び始め、昨年自分の店舗を持った和田氏から、昨今の独立開店事情を語っていただきます。
これから起業する皆さんへのアドバイスとして、まず、投資額の半分にあたる自己資金が必要だと伝えたいです。ほとんどの人が融資を受けなければいけないと思いますが、事業計画を立てる上で、半分を自己資金で確保しておくべきです。そして、区や市町村の融資制度があるかどうかを調べるといいと思います。安易に国金(国民生活金融公庫)に行くのではなく、出店場所にどういう融資制度があるかを調べるといいです。
僕は、まず 「創業アシストプラザ」(編集部注:東京信用保証協会が創業サポートの専門部署として開設) というところへ行きました。創業しようという人に対して支援をしてくれるところで、実際の融資は民間の銀行が行うのですが、その推薦状のようなものを書いてくれるのです。そういった機関を活用して、自分が出店しようと思っているエリアで、一番安い利率でお金を貸してくれるのはどこかを調べるいいと思います。それに、創業に際して必要なことをレクチャーしてくれる起業家向けの無料講座も活用させてもらいましたね。
区や市によっては、国金よりも安い利率で貸し出してくれるところがあるはずです。そのかわり、審査が厳しくて、ちゃんとした事業計画でなければ貸してくれません。僕は、創業アシストプラザで、区の融資制度を教えてもらいました。区の融資課みたいなところで、どこでどういう規模の店をやりたいのか、売上計画はどうなっているのか、詳しい事業計画を伝えて相談します。建物図面やデザイン、イスや機器などの見積りもすべて添付して、いくら借りて、いくらずつ返済していくという申請が通れば融資をしてもらえるという制度でした。区としては、成功すれば税収につながるメリットがあるわけですから、国金とは利率が全然違うのです。インターネットを活用して区市町村の制度を詳しく探した方が良いですよ。
融資を受ける人は、工事の開始と契約内容、代金支払いをきちんと考えておかないといけません。いつまでに工事が終って、その1ヶ月後に支払うという環境をしっかりしておかないと、すべてがダメになってしまいます。融資が追いつかなくなることがありますから。僕も、融資が満額出るかどうかとても不安でした。いくら銀行に確認しても、満額出るとは事前には教えてくれません。出てみなければ額は分からないんです。でも、現場では工事が始まっていて、物件の家賃も発生している。そのタイミングを合わせて調整をしていかないと、工事がストップしたまま家賃だけ払うということになったり、万が一融資額が少なかった時はさらに借り入れに奔走しなければいけなくなります。起業する上では、物件の決定と資金の確保と活用が一番の悩みどころになると思います。
加えて注意してほしいのは、デザイン会社やデザイナーさんとの付き合い方ですね。デザイナーさんは、物件にお金を掛けるほど取り分が増えますから、基本的に高く高くしようとします。お金を使って格好良くして、報酬を増やすことがデザイナーの仕事ですから。初めて出店する場合は、そんなにお金を掛けるべきではないと思います。内装も高くするほど固定資産税が上がるのですから極力抑えるべきです。
僕の店は、学生時代からの友人の会社が作ってくれたのですが、実際には予算をオーバーしていたのに、それを請求せずに被ってくれたんです。僕の知り合いには、ものすごくお金を掛けた焼肉屋が撤退したという物件を 600万円で買った人がいます。個人で最初に店をやろうという時は、多額のお金を掛けるのではなく、そういった得になる情報を得られる人脈を広げることが重要になると思います。どんどん人のつながりを辿って、話を聞きにいくべきです。
仲間や人脈を持っておかないと店は絶対にできません。人が嫌いだとか、話すのが苦手という人はすぐに辞めた方が良いです。若いうちから積み重ねて人脈を広げていく。これは、開店してからも同じですね。お客さんと話してみたら、学校の先輩だったり、ロッテの熱烈なファンだったりと、どこかで人間ってつながっていくものです。人のつながりを大事にすることが飲食業ではないかと感じています。
和田 孝志
1970年埼玉県春日部市出身。
拓大紅陵高校(千葉)時代には甲子園出場、東洋大に入学後、東都大学リーグでは10人目のノーヒットノーランを達成する。1993年にドラフト3位で千葉ロッテに入団、通算72試合に登板して、2勝3敗・防御梨3.67の成績を残す。
2002年の現役引退は、スコアラー・バッティング投手・査定担当などを歴任、2005年の日本一を経験して退団、飲食業の道へ進む。同じく元プロ野球選手の石井浩郎氏が経営する飲食店勤務を経て、昨年5月末に渋谷宮益坂上にて和食ダイニング「美醤」を開業する。