カリスマ親父社長の“だから飲食店はおもしろい” 楽コーポレーション 宇野隆史氏

カリスマ親父社長の だから飲食店はおもしろい

大皿惣菜料理の草分けといわれる居酒屋「汁べゑ」の創業者であり、「くいものや楽」を中心とする多数のグループ店舗を手掛けている宇野氏。居酒屋経営者としての顔のほか、グループ店舗で社員を育て、独立開業まで導く「宇野道場」の“オヤジ”という一面もお持ちです。
厳しくも温かい教育方針で、宇野氏のもとを卒業したOBは300名近くを数え、日本全国はもとより海外でも繁盛店を作り上げています。
宇野氏が考える外食産業の魅力から、大規模チェーンとは異なる個性を活かした店作りのノウハウから、「宇野道場」で教える起業のための心掛けなどを語っていただきました。

第2回 一人目のお客さんが入ってくれたら飲食店は成功

最初の店では、金がないからこそのおもしろさに気づいた。玄関トビラも中古の障子戸だったので、雨が降れば破れてしまう。障子紙がメニューになっていたので、雨のたびにボロボロになったけど、逆に考えて、雨が降るたびにメニューが更新されるお店にした。 あるときのメニュー更新で、お客さんから要望があったビールの中瓶を入れることにしたけど、「中・250円」と書くところを「中・280円」と大瓶と同じ値段で書いてしまった。すべての紙を貼り替えたところだったので、面倒くさいからこのままでいいやと思ったんだけど、ただの書き間違いにしか見えない。そこで、どうせならと「小・280円」と書き加えてやった(笑)。そうしたら、その日からお客さんの引きがよくなったね。10人のお客さんのうち8人までが、「小瓶を飲んだ人いる?」と聞いてくる。「はい、いますよ。あなたが第1号!」と答えると、例外なく「いやいや、大瓶をくれ」となる。そういう日常的な会話ができるようになって、初めて商売っておもしろいなと感じることができた。

往時の面影を残す汁べゑ下北沢店
往時の面影を残す汁べゑ下北沢店

僕は、ビール瓶の栓が抜けて、市販のおでんの袋が開けられれば、とりあえずおでん屋はできると考えている。お客さんが来ておでんを食べてくれたら、次のときには干物でも出してみる。会話をしていくうちに、最後にご飯が食べたいと要望があれば、その次はおにぎりを出すようにする。我々がやっているような店は、そういう日常性がなければ絶対に成功しない。肉屋や魚屋に行って食材を見た時に、「これを出したら、○○さんはどういう顔をするかな、どういう反応するかな」と客の顔が浮かんでこなきゃいけない。それは、シーズン前にメニューが決まってしまう大手の飲食チェーンでは不可能だから、我々のような居酒屋に日常性を求めて来てくれるようになる。だから、一人目のお客さんが入ってくれたら飲食店は成功だね。別に、首根っこを抑えて連れてきたわけではなく、自分の意思で入ってくれたんだからね。そして、必ず何か食べて、飲んでくれる。その時におもしろいメニューがあったり、おもしろいオヤジがいて、次は友人を連れてこようと思ってくれれば大成功。飲食店は「合法的なネズミ講」だと思う。そのために、何をすればいいのかを身に付ければ成功は間違いない。



宇野 隆史

宇野 隆史

1944年東京生まれ。現在の居酒屋文化に大きな影響を与えたコンセプト「くいものや楽」の創業経営者。現在はバンクーバーに住居を構え、日本とカナダとの二重生活を送る。昨年12月三軒茶屋に「べゑ’s BAR 虎龍」をオープン。店造り、商品とも楽しさに溢れた店舗で希代のコンセプトメーカーと言われる実力を見せつけた。

ページのトップへ戻る