ただ儲かればいい、自分さえよければいいという前時代的な価値観ではなく、食と命のつながりを自然から学び、飲食店のあるべき姿を追求する独自の店舗展開を行っている株式会社自然回帰 。無農薬野菜などさまざまな自然の恵みをメニューに掲げる「活菜厨房 然」をはじめ、自分の理想とする店舗を繁盛店に育てている大西社長だが、その裏では「飲食の起業家がやりがちな失敗をすべて経験してきた」と自らの経歴を振り返る。その体験談を赤裸々に語っていただきながら、起業時のアドバイスや繁盛店へのヒントをうかがった。
飲食業に携わる皆さんに伝えたいことは、「 仲間が大好きである 」 ことが、この業界にいる者の前提だということです。コミュニケーションの深さと売上は絶対に比例します。調理場とホールの間にある壁、上司と部下の壁を排除できているかが問題です。コミュニケーションの深さが店の力になって、そこにはお客様がたくさん集まってくるものです。
基本的に、起業をされる方というのは、優秀な人が多いと思います。何か他人よりも秀でているのですが、それに固執してしまうとコミュニケーションの壁にぶち当たると思います。やはり、仲間と一緒に積み上げていかないと成功しない業種なんですね。
「 同じ釜の飯を喰う 」 という言葉は、飲食業のためにある言葉ではないかと思うことがあります。仲間と本気で関わり、感動できるのが、この業界です。それをやりつづけていくことが基本なのです。デフレだから値段を下げるとか、流行り廃りに振り回されてばかりではダメになってしまうかもしれません。飲食店で一番大事なのは 「 仲間 」 であると理解してほしいと思います。
飲食というのは装置産業であり、ハイリスク・ローリターンの業種です。これが何を示しているかというと、失敗は許されないということです。自分の理想や思いを形にしたいのは分かりますが、そこに意地を張るべきではありません。そういうスタンスの人、考え方の人には辛い業種ではないかと思います。
一度失敗すると、ケースバイケースですが、少なくとも1000万円から2000万円ものお金を無くしてしまいますから、絶対に成功しなければいけません。その意味では、自己資金の軍資金がなければ、手を出してはいけないと思います。親戚中から借りたり、サラ金まではいかないまでも、お金を借りて店を出す人もいますが、人から借りたお金で事業をやろうというのは、私は甘えがあるように思います。自己資金を貯めてない人は、やるべきじゃないといはっきりと申し上げたいですね。
飲食店は、すべての料理・サービスに何一つ同じものがない、究極のオーダーメイド産業です。結局は、自分の仕事に対してバランスを取りながら、どこまでそれを突き詰められるかという修行の世界だと思います。他にも、お客様の反応をすぐにいただけて、喜びを仲間と分かち合えるモチベーション向上産業であり、利他の追求に自分の存在を見出せる慮り(おもんぱかり)産業でもあり、いろいろなバランスを求められるバランス力向上産業でもあります。この4つが、飲食業に対する私のイメージです。
この業界は、人間力を高められる業種です。個性が強い先輩方も多いですが、かなり人間的に磨かれている方ばかりです。やんちゃで大バカ野郎の私ですら、少しは変わることができましたからね。素晴らしい業界ですから、進んで手を上げて参入してほしいと思います。
これから起業される方に申し上げたいことが5点あります。
まずは、起業する意義を確認してほしいということです。何のために起業をするのか?金もうけしたい、外車に乗りたいというのであれば、すぐに辞めた方がいいです。非常に生産性の低い業界ですからお金儲けをメインに考えている人には不向きな業種です。
それから、業界での自分たちの役割は何か、自分たちがどのポジションにいるのか、そしてそこで何をすべきか、何をしなければいけないのかということを考えてください。
“ 利他 ” の心があるか確認してください。自分が自分がという自己顕示欲が強い人というのは、どこかでうまくいかないことが出てくると思います。
そして、不退転の決意があるかどうか。諦めたら負けで、やりつづけるしかないからです。
最後に、気力と体力の問題です。諦めない心、強い体は、飲食には欠かせません。体力には自己資金も含みますよ。
この5つがあって、その次に、業態や立地、メニュー、販促活動といったものが続くだろうと思います。起業に大事なポイントは最初の5つだと覚悟をしてください。
株式会社自然回帰
代表取締役社長 大西礼二氏
1965年香川県出身
西武グループにてホテル業務などに従事した後、1997年12月に株式会社アール・ティー・エヌを設立、翌3月に一号店となる「食通工房 然 四谷店」を開店。飲食店形態で展開する一方、「旬彩弁当 然」という持ち帰り弁当店をオープンするなど「然」ブランドの多業態展開も行っている。現在は、四谷から移転した「活菜工房 然 大手町店」のほか、「食通工房 然 汐留店」「大九州酒場どげんこげん(汐留)」「旬彩弁当 然 赤坂店」を運営。生産者との深いつながりを活かした産直の味が好評を博している。