飲食店は人間力の修行の場-働く仲間と生産者様とお客様、そのトライアングルが真の繁盛店を育てる- 株式会社自然回帰 大西礼二氏

飲食店は人間力の修行の場-働く仲間と生産者様とお客様、そのトライアングルが真の繁盛店を育てる 株式会社自然回帰 大西礼二氏

ただ儲かればいい、自分さえよければいいという前時代的な価値観ではなく、食と命のつながりを自然から学び、飲食店のあるべき姿を追求する独自の店舗展開を行っている株式会社自然回帰 。無農薬野菜などさまざまな自然の恵みをメニューに掲げる「活菜厨房 然」をはじめ、自分の理想とする店舗を繁盛店に育てている大西社長だが、その裏では「飲食の起業家がやりがちな失敗をすべて経験してきた」と自らの経歴を振り返る。その体験談を赤裸々に語っていただきながら、起業時のアドバイスや繁盛店へのヒントをうかがった。

第2回 創業時には何でもやってみるべき!ただし背伸びはしないこと!!

第2回 創業時には何でもやってみるべき!ただし背伸びはしないこと!!

飲食店は人間力の修行の場 働く仲間と生産者様とお客様、そのトライアングルが真の繁盛店を育てる 株式会社自然回帰 大西礼二氏 1998年に四谷にオープンした 「 食通工房 然 」 は、ウナギ店の居抜き物件を借りてスタートしましたが、繁盛するまでには問題ばかりでした。いきなり、オープン直後から2週間も店を閉めましたからね。レセプションを開催して、営業してみたら、世の中は甘くなかったですね。当時は、今と違って開業するとオープン景気でお客様が来てくれる時代でした。来てくださっても、誰一人として満足してくれない、当初やろうとしていた3倍の喜びに至っていないと痛感させられました。「 このままじゃダメだ 」 と2週間にわたって本当に閉めました。

一緒にいた仲間は 「 頭がおかしくなったな 」 と思ったでしょうが、その間に、「 飲食とは何なのか、何が問題だったのか 」 を改めて検証しました。フレンチのソースのポイントは何か?前仕込みをしてオペレーションの問題を軽減して、お客様には良いところを凝縮してお届けするといった基本的な戦術をその間にじっくりと練ったわけです。閉店していても仲間に給料を払わないといけないので、短期間に集中して真剣に考えました。いい時代だったからできたことですが、その2週間があったことで、お客様の間にも徐々に評判が広まっていったと思います。

飲食店は人間力の修行の場 働く仲間と生産者様とお客様、そのトライアングルが真の繁盛店を育てる 株式会社自然回帰 大西礼二氏起業しようとしている皆さんにお伝えすべきことは、「 創業期に何をやってきたか? 」 ということだと思いますが、私の場合は、何でもやったが正しい答えになります。と言うのも、その頃からある確固たる信念を持っていました。それは、どんな立地でも、不景気でも、悪条件であっても、お客様のニーズは必ず存在するはずで、そのニーズを捉えれば何かを掴めるという思いです。あまりに節操ないことですが、具体的には、フレンチといいながら和食も提供していましたし、クリスマスシーズンにはテーブルクロスを敷いたレストランとして営業もしていました。当時の四谷は、上智大学のクリスマスツリーが評判で結構な有名スポットだったんです。何もしなくてもカップルが店に行列するわけです。そうしたら、こっちも蝶ネクタイとか付けてレストラン仕様に変身して。さらに、その1週間後には、おせち料理を提供する仕出し店に変身しました。

飲食店は人間力の修行の場 働く仲間と生産者様とお客様、そのトライアングルが真の繁盛店を育てる 株式会社自然回帰 大西礼二氏お店作りとしては、全く参考になりませんが、お客様のお役に立つ!という姿勢は感じ取って頂きたいです。また、近くにあった共同通信社の記者さん向けに朝食弁当も販売しました。とても朝早くから活動されるので、夜中2時頃から作りはじめ、5時にはお届けしなければなりませんでした。花見シーズンになると、ケータリングカーにいろいろなものを積んで出掛けていきました。テキ屋の皆さんから追いかけられて、逃げ回ったこともありました。ニーズを捉えるためには、それぐらい何でもやってみた方がいいかもしれませんね。やり方は真似しない方がいいと思いますが…(笑)。その代わり、スタッフ全員が体をボロボロにしていました。

そうやって節操ないことをやっていたのですが、その期間にお店の中では、一流のシェフからフレンチの料理の力というものを勉強できました。フレンチのソースというのは、いろいろな要素が凝縮されて完成しています。姿勢や手順、温度、時間とのバランスといったものが、ある一点にならないと本物にならないわけです。それを職人さんと戦いながら、目の前で勉強させてもらいました。私は今でも鍋を振ることはできませんが、食がどうあるべきか、作る側の立場を知ることができたのです。今は、それがさらに進化して素材まで遡って事業を展開しています。これから起業する皆さんも、実際に作れなくてもいいですが、料理を作る立場で料理を勉強してほしいと思います。

飲食店は人間力の修行の場 働く仲間と生産者様とお客様、そのトライアングルが真の繁盛店を育てる 株式会社自然回帰 大西礼二氏四谷店の2年目に、今でも大事にお付き合いをさせていただいている庄内の米農家様との出会いがあり、玄米という食材に出会いました。お客様に玄米を毎日食べていただきたいのですが、その当時は客単価が3300円の店でしたから、毎日来店してもらうのは不可能です。そこで、2店舗目はお弁当屋にしたのです。四谷店の店頭でも販売をしていたわけですが、「 毎日玄米を食べられてうれしい 」 というお客様の声もあって、あまり深く考えずにお弁当専門店もいけると判断したわけです。

旬彩弁当 然 赤坂店10年ほど経った今でもお弁当屋は続いているのですが、弁当290円という時代において、700円から一切値下げをしていないバカヤロウな店です(笑)。副菜以外は、作り置きではなくオーダーが入ってから盛り込むようにしています。炭火焼などの料理も熱々で提供しています。やはり、食数は下がってきていますが、そういう手間を惜しまないスタッフに恵まれていることもあって、ご好評をいただいています。「 食はいのち 」 という感覚は、このお弁当屋を契機に深まっていきました。

これからの起業家の皆さんへお伝えしたいのは、リスクを取らなければリターンがないのは原則ですが、力がない時は背伸びをせずに誠意と知恵で勝負すべきということです。後述しますが、お弁当屋も多店舗展開したために、私は大変な目に遭いました。飲食は、装置産業というのが前提にあるので、装置が無いときは愛と知恵で勝負するのがベターだと思います。



大西礼二氏

株式会社自然回帰

http://shizenkaiki.jp/

代表取締役社長 大西礼二氏
1965年香川県出身

西武グループにてホテル業務などに従事した後、1997年12月に株式会社アール・ティー・エヌを設立、翌3月に一号店となる「食通工房 然 四谷店」を開店。飲食店形態で展開する一方、「旬彩弁当 然」という持ち帰り弁当店をオープンするなど「然」ブランドの多業態展開も行っている。現在は、四谷から移転した「活菜工房 然 大手町店」のほか、「食通工房 然 汐留店」「大九州酒場どげんこげん(汐留)」「旬彩弁当 然 赤坂店」を運営。生産者との深いつながりを活かした産直の味が好評を博している。

文:貝田知明
ページのトップへ戻る