静岡県藤枝市にある「遊酒 岡むら」を始めとして同県内に現在7店舗の居酒屋を経営する岡むら浪漫。代表の岡村佳明氏は「看板をださない」「宣伝をしない」「入口がわからない」という独自のコンセプトで、口コミだけの繁盛店を作り上げてきた。彼のユニークな経営手法は、メディアからも脚光を浴び、今や全国の講演会にひっぱりだことなる。また「居酒屋から藤枝を元気にする会」を立ち上げ、地元の活性化にも積極的に取り組んでいる。そんな多忙な日々を送る岡村代表に、繁盛店つくりの極意を語っていただいた。
私がこの居酒屋業界に入って良かったと思えることの一つ目は、まずは親の跡を継げたことです。おふくろにとって、自分の作り上げた店を息子が引き継いだことはとても嬉しかったのではではないでしょうか。何よりの親孝行になったのではと思います。
二つ目に挙げたいのは、おふくろの居酒屋に対する思いを若者に伝えることができたことです。今の若者に 「 居酒屋ってどういうところ?」 と聞けば 「 安く酒が飲めるところ 」 と簡単に答えるでしょう。でもそれは、いわゆる駅前の居酒屋チェーンのことなのです。しかし、私は、居酒屋とは 「 第二の家庭 」 だと思っています。「 人に会いに行くところ 」 なのです。うちの店では 「 美味しかった 」 よりも 「 楽しかった 」、「 また食べに来るね 」 よりも 「 また会いに来るね 」 と言ってもらえる店つくりを目指しています。スタッフには、自分が好かれる人間になって、「 お前が頑張っているからこの店に来るんだよ 」 と言ってもらえるようになりなさいと、いつも言っています。
人の家を訪ねるなら、わざわざ嫌いな人の家には行きませんよね。好きな人の家だから訪ねたいと思うものです。居酒屋も家庭と一緒だと思うのです。「 あいつと話したいから行こう 」 と思って来てくれる人に対して、「 せっかく来てくれるからおいしいものでも食べてもらおう 」 「 せっかく来てくれるなら部屋もきれいにしよう 」 「 せっかく来てくれるなら、ちょっと驚かしてみよう 」 …居酒屋の原点もそこにあると思います。来てもらうために、料理や掃除やサプライズを考えるのとは少し違うのです。まずは、会いに来てもらえる人間になることが優先、自分つくりが大事な所、それが居酒屋だと思っています。
このことを、おふくろは何十年もやり続けてきたのです。だからこそ、普通の居酒屋とは違う、おふくろのこうした思いを若者に伝えていくことが私の役割だと思ってきたし、それができるようになった今を、おふくろは喜んでくれていると思います。
東京で繁盛しているが田舎では繁盛しない店というのはよくあります。でも反対に、田舎で繁盛している店は東京でも繁盛すると言われています。これは、東京ではまず、何が売れるかを考えて出店されるため、一度ヒットしたら、人口が多い分、流行が一巡するまでに結構長い時間かけて繁盛しやすいのです。でも、田舎では、そもそも人口が少ないから、同じお客さんが何度も足を運んでくれなければ繁盛できないのです。だから、リピーターになってもらう店つくりをしなければダメなのです。それは、「 人つくり 」 に尽きるのです。
「 料理は不味いけれど、お前に会いに来たよ 」、それくらい、人に応援してもらえる人になろう。自分の応援団を増やそう。そのためにスタッフに、「 店に来てくれたお客様全員は無理だとしても、せめて自分の目の前のカウンターに座っているお客様にだけは自分の名前を覚えてもらおう。だから一生懸命会話して、名刺渡して、自分を全力でアピールしてごらん。それを1日5人にしたら、1ヶ月で100人、1年で1,000人、10年で10,000人以上になる。その中から、君の応援団を増やしていけば、この先、自分の店を出す時だって、看板や宣伝を出さなくてもお客様が来てくれて、店は繁盛するよ 」 とよく言っています。
好かれる人間になるということは商売にとっても、人生にとっても大切なことではないでしょうか。何をどう売るかよりも、自分をどう売るか、が一番大事なことだと思うのです。
有限会社 岡むら浪漫
1950(昭和25)年 「はとや」で創業
1970(昭和45)年 「酒房 岡むら」開業
2002(平成14)年 「遊酒 岡むら」開業
「遊酒 岡むら」の他、「喰い処ばぁ 幸」「五十海 しぃぼー」「岡むら のぼる」「岡むら うさく」「VEGETABEL BAR 兼次郎」「港町 岡むら いきち」を運営
代表取締役 岡村佳明氏
1962年10月 静岡県藤枝市出身
著書に「看板のない居酒屋」