静岡県藤枝市にある「遊酒 岡むら」を始めとして同県内に現在7店舗の居酒屋を経営する岡むら浪漫。代表の岡村佳明氏は「看板をださない」「宣伝をしない」「入口がわからない」という独自のコンセプトで、口コミだけの繁盛店を作り上げてきた。彼のユニークな経営手法は、メディアからも脚光を浴び、今や全国の講演会にひっぱりだことなる。また「居酒屋から藤枝を元気にする会」を立ち上げ、地元の活性化にも積極的に取り組んでいる。そんな多忙な日々を送る岡村代表に、繁盛店つくりの極意を語っていただいた。
おふくろが刺身を切って、私が揚げ物を揚げて切り盛りしていた店も、だんだんと手が回らなくなるほど忙しくなってきた頃のことです。常連さんの中に、私よりも優れた料理の腕を持った後輩がいて、ある時、「 一緒に働かせてほしい 」 と言ってくれました。その彼が 「 岡むら 」 で働き始めたころから多店舗化が現実味をもってきました。彼とならやっていける、任せられるという確信があったからです。それと、飲食業は、利益率がそれほど高くないので、1店舗だけで給料を毎年上げていくことが難しいのも現実でした。その様なことからも店を増やしていくことは必要でした。ただ、「 年間何店舗拡大 」 というような目標を掲げるのではなく、スタッフの成長や物件との巡りあわせなど、その時その時の状況に合わせて店舗を増やしていきました。
ラーメン屋やチェーン店の居酒屋は、「 人つくり 」 よりも 「 仕組みつくり 」 が優先されるので、出店はしやすいと思います。語弊があるかもしれませんが、仕組みとおいしい料理とそこそこの立地であればやっていけるのではないでしょうか。でも私は、「 仕組みつくり 」 優先で何百店舗もチェーン展開している大手の社長さんよりも、数店舗でもじっくり 「 人つくり 」 を優先している社長さんの方に、ずっとカリスマ性を感じます。ビジネスが前面に出る人にカリスマ性をあまり感じないのです。ビジネスという言葉自体もあまり好きではありません。私の中では、ビジネスは “ ロマン ” の反対語のように感じられるのです。
私にとって、店を増やしていくことよりも、まず第一に、お客様に喜んでいただく店であり続けることのほうが大事なことです。そのためにはお客様を直接喜ばせるスタッフを喜ばせることが、私の役割、私の 「 人つくり 」 のモットーだと思っています。スタッフが楽しんで働けば、お客様にも楽しんでいただける、そのことに心砕いて伝え続けていきたいと思っています。
恩師の西田文郎先生に教えて頂いた言葉ですが、人に何かを伝えるには 「 直接暗示 」 と 「 間接暗示 」 の二つの方法があるそうです。例えば子供を叱るとき、「 ○○してはだめでしょ 」 と言うのが 「 直接暗示 」 なら、「 そんなことをしたらお母さん悲しいな 」 と涙を流して言うのが 「 間接暗示 」 です。これを店内で例えるならトイレの張り紙に 「 汚すな 」 と書かれていたら 「 直接暗示 」 だし、「 いつもきれいに使っていただきありがとうございます 」 と書かれていたら 「 間接暗示 」 になるのです。つまり、直接暗示とは命令であり、人からやらされることであり、間接暗示とは気づきであり自発的な行いのことなのです。人が心動かされるのはどちらか言うまでもありませんよね。私の目指す店もそこにあります。看板や広告を出さずとも、目の前のお客様に喜んでいただくことによって口コミでお客様が増えるというのも一種の 「 間接暗示 」 です。「 ベジタブルバー 兼次郎 」 は藤沢駅前から1分の立地にありますが、DMには 「 スキップで50歩 」 と印刷しています。これを普通に 「 徒歩1分 」 と書いてあるより、お客様が笑顔になってくれたり、面白がってくれるのはどっちか?やはり、何を伝えるかより、どう伝えるかが大事ではないでしょうか。私は、そんな 「 間接暗示 」 を追及した店を目指していきたいのです。そうすることで、スタッフにとっても、お客様にとっても魅力的な店が出来上がると確信しています。
有限会社 岡むら浪漫
1950(昭和25)年 「はとや」で創業
1970(昭和45)年 「酒房 岡むら」開業
2002(平成14)年 「遊酒 岡むら」開業
「遊酒 岡むら」の他、「喰い処ばぁ 幸」「五十海 しぃぼー」「岡むら のぼる」「岡むら うさく」「VEGETABEL BAR 兼次郎」「港町 岡むら いきち」を運営
代表取締役 岡村佳明氏
1962年10月 静岡県藤枝市出身
著書に「看板のない居酒屋」