静岡県藤枝市にある「遊酒 岡むら」を始めとして同県内に現在7店舗の居酒屋を経営する岡むら浪漫。代表の岡村佳明氏は「看板をださない」「宣伝をしない」「入口がわからない」という独自のコンセプトで、口コミだけの繁盛店を作り上げてきた。彼のユニークな経営手法は、メディアからも脚光を浴び、今や全国の講演会にひっぱりだことなる。また「居酒屋から藤枝を元気にする会」を立ち上げ、地元の活性化にも積極的に取り組んでいる。そんな多忙な日々を送る岡村代表に、繁盛店つくりの極意を語っていただいた。
私は昔から 「自分の夢 」 というのは特になく、「 夢 」 という言葉に魅力を感じたこともありません。でも夢がないというのもどうなのだろうと思っていたら、ある方から一冊の本を薦められました。平本相武さんの 「 成功するのに目標はいらない!」 という本でした。その中で、成功する人には 「 ビジョン型 」 と 「 価値観型 」 の二つのタイプがあると書いてありました。「 ビジョン型 」 は将来のビジョンや夢を持っていて、その実現のための具体的行動を逆算して今何が足りないか、何をすべきかがわかる人のことです。一方、「 価値観型 」 は夢やビジョンはないけれど、今、目の前のことにやりがいや価値を感じて一生懸命やっているうちに成功してしまうタイプのこと。天下統一をビジョンに掲げて戦国の世に散った織田信長が 「 ビジョン型 」 なら、信長の第一の家臣として生きると決めて結果的に天下統一を成し遂げた豊臣秀吉は 「 価値観型 」 だと平本さんは書いています。現代の野球界で例えるなら 「 ビジョン型 」 にはイチローや斎藤祐樹、「 価値観型 」 には松井秀樹や田中将大が当てはまると言われています。また日本人の6割は 「 価値観型 」 だそうです。この本を読んで、私も正に価値観型の人間だと思いました。だから成功するには目標も夢もなくても構わないのです。もちろんビジョンや夢がある人は、それに向かって突き進んで行って欲しい。でもビジョンや夢は無くても、「 価値観型 」 の人は、目の前のことを一生懸命、全力でやる。目の前のことに本気で取り組み、突き進むことで、良い人生が開けるのです。
私は 「 夢 」 という言葉よりも、「 ロマン 」 という言葉の方が、魅力的に響くので好きです。届きそうで届かないというイメージもなんとなく好きなのです。だから社名にも 「 浪漫 」 を付けたのです。前回にも話しましたが、店の名前にご先祖様たちの名前を付けたのも、自分の頑張りでご先祖様たちの名前を残せる、これも私にとってはロマンだからです。
辞書で 「 居酒屋 」 と引くと 「 店先で酒を安く売るところ 」 とか 「 安い酒を売るところ 」 とか出てきます。でもこれでは子供たちが、お父さんお母さんがしょっちゅう行っている居酒屋がどんなところだろうと思って辞書を調べた時、「 お父さんはかっこいいな 」 とか 「 僕も居酒屋で働きたいな 」 とかは絶対思いませんよね。それより、調べたら 「 夢を語る場所 」 だったり 「 働くとかっこよくなる場所 」 だったり 「 美味しいものを食べられる場所 」 だったらどうでしょう。居酒屋をそんな辞書の定義まで変えられるような場所にすることも、私にとってのロマンなのです。現実的な夢は無くてもそんなロマンが好きなのです。
私は恩師 西田文郎先生の勧めで、ご縁あって 「 看板のない居酒屋 」 という本を出させていただきました。私の店は 「 看板を出さない。宣伝をしない。入口がわからない 」 というコンセプトで、直接的な看板や広告で店の宣伝をしませんが、私がいろんなところに行って講演をしたり本を出したりして目立つことで、ある意味、間接的な宣伝をしていることになります。
「 静岡の田舎の居酒屋が注目されている 」 となればスタッフの意識も店のステイタスも変わってきます。「 岡むら浪漫 」 で働くこと自体がステイタスになるような会社にしたいというのも私にとってのロマンなのです。そしてスタッフには、他の飲食店や居酒屋では経験できないことを経験させてあげられる会社にしたいのです。例えば、私の本に載るということもその一つです。本を書くことだって男のロマンではないでしょうか?
ご興味のある方は、是非ご一読ください(笑)。
有限会社 岡むら浪漫
1950(昭和25)年 「はとや」で創業
1970(昭和45)年 「酒房 岡むら」開業
2002(平成14)年 「遊酒 岡むら」開業
「遊酒 岡むら」の他、「喰い処ばぁ 幸」「五十海 しぃぼー」「岡むら のぼる」「岡むら うさく」「VEGETABEL BAR 兼次郎」「港町 岡むら いきち」を運営
代表取締役 岡村佳明氏
1962年10月 静岡県藤枝市出身
著書に「看板のない居酒屋」