東京・東中野にあるナポリピッツァ専門店「ピッツェリアGG」は、600円台から本場の味を楽しめることで多くのファンを抱えています。店長を勤める河野智之氏は、ナポリの老舗店舗で修行を重ねた本場仕込みのピッツァ職人。興味をもった食べ物を身につけるため単身イタリアへ渡り、若くして人気店を切り盛りするに至った貴重な体験談をお話いただきます。
ナポリピッツァは、予め切って提供することはありません。ナイフとフォークをつかって自分で切り分けながら1人で1枚を食べるのが基本です。切って出すのは、小さなお子さんがいるときとお客さんから要望があったときだけです。先に切ってしまうと、ソースやオイルが生地にしみ込んで、せっかくの食感がダレておいしくなくなってしまうのです。ステーキのように、切りながら一口ずつ食べる方が断然おいしいです。人によっては、丸のままのピッツァを折り畳んで食べることもありますから。ただし、熱いので火傷に注意しなければいけません。畳んで、持ち帰り用のピッツァに向いています。
でも、絶対にそうやって食べなければいけないというものではありません。切ってあった方が食べやすいとか、急いで食べたいので切ってほしいとリクエストしてもらって一向に構いません。言葉は悪いですが、「 しょせんはピッツァ 」 なんですよね。だから自由に食べていいわけです。自分で切って食べた方がおいしいというのが基本ですが、それを店側が高圧的に要求するものでもありません。ナイフとフォークで食べるのは違和感があるかもしれませんが、ナポリピッツァの認知度が上がってくれば問題なくなるだろうと思います。なぜ切らないのかと質問されることも多いですが、きちんと説明をすれば納得していただけますしね。それに、店内のボードやメニューには、切らない理由や食べ方をイラスト入りで掲示しています。
ナポリピッツァはすぐ焼けるという特徴があります。上手な職人と下手な職人で違ってきますが、窯に入れる時間は約1分半です。窯に温度が表示されないので、どのくらい焼けばいいかという温度管理は感覚で覚えています。仮に窯に温度計が付いていたとしても、どうすればいいかわ分からないので参考にしないでしょうが(笑)。どれだけ焼くかが修行ですから。それもナポリで覚えた方がいいと思います。ピッツァが日常食ですから、日本で修行するのとは焼く枚数が圧倒的に違うのです。
店では、小麦粉・チーズ・オイル・塩はナポリのものを使っています。ナポリと東京は気候がまったく違いますが、毎日やっていたら生地の配合も自然に分かってきます。もちろん季節によっても変わってくるので、正確なレシピをつくれといわれてもできないのが事実です。毎日つくって理解していくしかない。私もレシピ表で習ったことはないですから。作業を見て覚える。酵母の量も 「 今日はこんなものかな 」 という感じでした。
サービス業としては、気温や湿度がこの位だから、生地の配合はこうというように詳しくやるべきなのでしょうが、このピッツェリアでは、そこまでやる必要はないと考えています。これが1万円、2万円も取るような食べものなら話は別です。大衆の日常食であるナポリピッツァは、少しぐらい配合が違っていても美味しく食べられるし、味が日によって少しずつ変わっていても別にいいんじゃないのという食べ物なのです。一定レベル以上であれば、いろいろな美味しさがあっていい料理。だから、職人が感覚で作るナポリ流でいいのだろうと思っています。
従業員の接客についても同じです。必要なスキルを身につけていれば、自分の好きなようにやっていくべきだと考えています。だから最低限のレベルを教えて、それを守ってさえいれば、接客だろうが盛り付けだろうが好きなようにやらせます。これは、1枚2000円というピッツァを出すのであれば、許されない話です。大衆のためのピッツェリアですから、普段通りに話しかければいいと思います。普段通りといっても、もちろん敬語や丁寧語を使ってフレンドリーに話すという感覚です。それが、接客の悪さと取られることはないと思います。美味しく、安くピッツァを出すことがメインですから、最低限のレベルを守って接客にあたってくれればいい。これは、いい加減で構わないという意味ではありあせん。メニューや価格や雰囲気に応じて、“ かしこまらない接客 ” を心掛けるべきという意味です。くり返しになりますが、やっぱり 「 しょせんはピッツァ 」 なんですよ(笑)。我々は自信を持ってうまいものをつくりますが、お客さんはかしこまらずに楽しく食べて帰ってもらいたいのです。
河野 智之
1981年東京都出身。
学習院大学を卒業後、イタリア料理チェーン店に就職するも、自ら料理を身につけて起業したいとの思いから退職。翌年の2005年1月に単身イタリア・ナポリへ渡航する。
ナポリの老舗ピッツェリアでピッツァ職人として修行、2006年11月に帰国。
帰国後は料理店に勤務しながら起業準備に奔走、2007年10月に株式会社三番町ホテルの出資によって、東京・東中野にナポリピッツァ専門店「ピッツェリアGG」をオープンする。