東京・東中野にあるナポリピッツァ専門店「ピッツェリアGG」は、600円台から本場の味を楽しめることで多くのファンを抱えています。店長を勤める河野智之氏は、ナポリの老舗店舗で修行を重ねた本場仕込みのピッツァ職人。興味をもった食べ物を身につけるため単身イタリアへ渡り、若くして人気店を切り盛りするに至った貴重な体験談をお話いただきます。
ツテもなくナポリに行ったのですが、語学学校で知り合った人に相談をしたらすぐに修行先を紹介してくれました。「 マリーノ 」 という老舗のピッツェリアです。以前から日本人がよく修行に来ていたようで、前任の日本人スタッフと入れ替わるような形で入ることができました。1930年代にオープンした向こうでは有名なピッツェリアで、冬は50席程度ですが、夏場になるとテラス席を出して90席程度の規模になります。ナポリはカンパニア州の州都になるのですが、州知事をはじめ著名人がよく来ていました。
修行は、毎日毎日窯の前で焼くだけです。洗いものなど他の仕事は一切なく、ピッツァ職人のそばにずっと付いて教わるんです。最初は会話もろくにできませんでしたが、修行は楽しかったです。ただ、予めイタリア語を勉強していたとしても、ナポリは方言がきつくて言葉のやりとりが難しいみたいです。店で接客するときはイタリア語ですが、レストランスタッフの内部の会話は 「 ナポリ語 」 なので全然わからなかったですね。ジェスチャーや単語のやりとりだけでコミュニケーションを取っていました。だからというわけではないですが、一応レシピはあるんですけど、「 体で覚えろ 」 という教え方でした。一緒にピッツァをつくり、チェックを受けてOKをもらえればお客さんに出せるという感じです。覚えてきたら、一人で窯を任されるようにもなります。自分で満足いくようになってきたのは、修行の最後の頃だけですね。「 マリーノ 」 が休みの時に別の店でも働きましたが、まったく問題なく仕事ができました。今なら、僕の方が技術的に上かもしれないと思えたことが自信にはなりましたね。
修行期間は約2年で、2006年11月に帰国しました。すぐに店を出したかったですが、お金があるはずないので、とりあえず料理店に就職しました。仕事をしながら店を出すチャンスのひとつとして、スポンサー探しも行っていました。現在の店の出資会社である三番町ホテルと出会うチャンスに恵まれました。
ファミレスで働いていた私の父親の知り合いだったのですが、僕がやりたいことにオーナーが興味をもってくれたのです。
ありがたいことに、物件探しから店舗デザインまで任せてもらえました。青山や吉祥寺といった繁華街で勝負をしたかったのですが、やっぱり値段が高すぎました。現在のJR中央線・東中野駅近くの物件は、三番町ホテルから紹介されたものです。大きな繁華街ではなく、たくさんの人が行き交う立地でもないのですが、ここで繁盛させられれば他の場所でも成功できるだろうと思って出店することにしました。
内装やデザインなど備品の買い付けために、2007年の5~6月にもう一度ナポリに行きました。その時に2m四方サイズの窯も買ってきました。ナポリの知り合いを頼って窯職人を紹介してもらったのですが、ドイツやフランスからも注文が入るという確かな腕をもつ職人でした。人間的にもすごい人でしたね。「 先に金は払わなくていい。窯ができてから、ここに振り込んでくれ 」 という商談でした。職人気質ですよね。代金は4000ユーロ。当時、1ユーロ約170円でしたから70万円程度です。2ヶ月後に船便でやってきましたが、店に入れる時は大変でした。といっても業者さんが運んでくれたのですが、3トン近くあるので見るからに大変そうでした(笑)。
河野 智之
1981年東京都出身。
学習院大学を卒業後、イタリア料理チェーン店に就職するも、自ら料理を身につけて起業したいとの思いから退職。翌年の2005年1月に単身イタリア・ナポリへ渡航する。
ナポリの老舗ピッツェリアでピッツァ職人として修行、2006年11月に帰国。
帰国後は料理店に勤務しながら起業準備に奔走、2007年10月に株式会社三番町ホテルの出資によって、東京・東中野にナポリピッツァ専門店「ピッツェリアGG」をオープンする。