大人の隠れ家的居酒屋「勝手口 てやん亭゙」、博多串焼きの専門店「ごりょんさん」など5店舗を都内に展開している岩澤氏。27歳の時に初めて外食産業に興味を持ち、前回の講義にご登場いただいた宇野隆史氏の元で修業を開始したというチャレンジ精神の持ち主です。
西荻窪に「てやん亭゙」を出店してから10数年、いまも挑戦を続けて全店舗を繁盛店に育て上げているほか、スタッフ指導にも力を注ぎ、岩澤氏の元から新たな起業家も巣立っています。
起業に必要な気構え、繁盛店へ育てる秘訣など、外食産業での独立を考える人々に向け、熱いメッセージをいただきました。
これから起業する人達にこれだけは言いたいんだけど、お店ができた段階っていうのは、何も描かれていない状態のキャンバスだと思うんですよ。店のコンセプトは決まっている、料理も決まっている、お皿も器も揃っているでしょう。でも、お店っていうのはやってみなければわからないもの。始めてから試行錯誤して、育てていくのがお店なんです。その時にダメだったら、次の日に変えればいいんですよ。ある料理を出して注文がなかったら、違う料理に変えちゃえばいいわけです。そうこうしているうちに、開店当初とは、全然違うメニューになっていて、まったく違うコンセプトになっているのは「成長」なんですよ。
だから、オープンしてお客が来ないって悩んでいるのは絶対にダメ。例えば、8月1日にオープンしたとして、その日にお客さんが3人しか来なかったら、大体の人は3人しか来なかったと思うんですよ。でも、僕は3人も来たじゃないかと考える。来年の8月1日に、その3人が10人ずつ連れてきてくれれば30人になるじゃないかとね。 オープンしたその日から、来たお客さんに対する営業が始まるんです。そういう考え方が必要だと思うんですよ。だから、苦労して悩んでいる暇なんかないんです。例えば、僕は何か面白いことしようと思って、グレープフルーツ割りをフレッシュを絞るタイプにした。いまでこそ当たり前ですが、11年くらい前にそんなことやってる店はなかった。極端なことをいえば、とにかく他の店と同じことをやるのがイヤだったんですよ。毎日違うことができるのが飲食店の楽しさじゃないかな。お店は、ひとつの舞台。その日その日でお客さんも違うわけだから、当然接客する方法も違っていい。毎日台本が違っていいわけですよ。お客さんを楽しませる筋書きのない舞台。それが飲食店じゃないのかな。
ひと昔前の飲食業界は、こだわった内外装で必ず個室があるといった箱的主義が主流だったが、そういう時代は終って、素材重視や専門店などのシンプル重視の時代になってきている。僕の会社でも、2年前から博多串焼専門店を中心にしています。美味しい素材に、良い塩をつけて炭火で焼く。そういった分かりやすさだけで、お客さんは喜んでくれる。時代の流れとかお客さんの嗜好性に合わせて変えていけばいいんです。といっても、シンプルにこだわるのは、実は大したことができないというのが理由だったりします。アルバイト含めてスタッフ40人位いますが、実は調理師は数えるほどしかいない。料理に関してはみんなド素人。ギターでいったらAマイナーしかできない。高度なテクニックのバンドに憧れはあるけど、単調なコードでいかにいい歌を作るかにこだわっている。シンプルといえば聞こえはいいが、何もできないんですよ(笑)。