「ドトールコーヒーショップ」をはじめ多彩なブランドのカフェを全国に展開、業界のリーディングカンパニーの地位を確立している株式会社ドトールコーヒー。 “一杯のおいしいコーヒーを通じてやすらぎと活力を提供する”を企業理念に掲げる同社の歴史と業態開発戦略をひも解いてみる。
おいしさを計る客観的な “ ものさし ” は、この世に存在しない。ドトール創業者である鳥羽博道が考え、現在も同社の基準となっている “ ものさし ” は、 「 うまさとは、人の心に感動を呼び起こすものでなければならない 」 というポリシーである。自分自身が感動したものを商品にする、自分が感動しないものを口にして人が感動するわけはない、というのが品質へのこだわりとなっているのだ。
感動を呼び起こすための世界一うまいコーヒーづくり。その第一歩となるのが、「生豆の質」である。ドトールコーヒーでは、現在世界12ヵ国からコーヒー豆を輸入しているが、味のブレを防ぎ、高いレベルでの品質安定を図るというクオリティ最優先の買い付けを行うために、生産国に対して3パターンでの「指定買い」を実施している。まずは、同じエリアの豆を指定する「地域指定」。さらに、同じプランテーションの豆を指定する「農園指定」。そして、最後が “ ドトールタイプ ” の味を指定する「味指定」で、買い付けまでには、膨大な時間と手間が費やされている。各国から送られてきたサンプル豆を試験的に焙煎(サンプルロースト)して、品質と味の傾向を確認。香りやコクなど幾度もリクエストを出しては試飲を繰り返し、ようやくドトールブランドとしての合格点が与えられるのである。
鳥羽がかつてブラジルで抱いた “ コーヒー農園を持ちたい ” という夢は、「ドトールコーヒーショップ」が誕生して11年、チェーン店数も順調に伸びていた1991年(平成3年)に現実のものとなる。ブルーマウンテンと並び称されるコナコーヒーの産地、ハワイ島コナ地区に約24万平米の「マウカメドウズ・オーシャン」を開設。さらに、1995年(平成7年)には、約43万平米の「マウカメドウズ・マウンテン」を設け、コーヒー豆の生産から焙煎、加工と園内に一貫した体制を完備するマウカメドウズ農園を誕生させたのである。若き日に描いた夢が、四半世紀を経て正夢となったマウカメドウズ農園は、まさに “ 夢の農園 ” というわけである。直営農園で育まれたコーヒー豆は、一粒一粒手摘みで収穫され、園内の精製工場へ送られて、ハワイ特有の陽光と風によって天日乾燥される。早朝に乾燥に出して、夜には取り込むという手間のかかる作業を約1週間続け、さらには1年も寝かせて熟成させる。手間ひまをかけ、愛情も注がれて誕生したコナコーヒー・マウカメドウズは、世界一うまいコーヒーづくりという理想を具現化したひとつの答えなのである。
厳しいチェックをクリアした高品質な生豆だけが運ばれていく焙煎工場には、ドトールのこだわりが詰まったオーダーメイドの直火焙煎機が設置されている。熱風焙煎より幅広い味の表現が可能とされる直火焙煎は、もともとわずかな量を焙煎するための手法であり、一度に200kgもの豆を直火で焼くというドトールの発想は常識外れ…。焙煎機メーカーからもそのような釜は製造不可能という返事であった。そこで、鳥羽をはじめとするスタッフ達は、国内で部品探しから始め、試行錯誤しながらひとつひとつ組み上げていき、オリジナルの焙煎機を完成させたのである。これは、同時に “ ドトールロースト ” とでもいうべき焙煎技術の誕生にもなったのである。
千葉県船橋市の工場には、現在5基、兵庫県加東市の工場には6基の焙煎機があるが、それぞれにクセや特徴があるため、釜ごとにオペレーター(焙煎師)が付いている。豆の量や炎の具合、逃がす煙の量、空気の流量等々の条件がわずかでも変わると味に大きな変化が表れるほか、気温や湿度などで生豆の状態も変化する。すべての生産過程をコンピュータで管理するとともに焙煎師の技による微調整を加えることで、高レベルなドトールローストが生まれているのである。
ドトールは、予測生産や作り置きをせず、香り高い新鮮な豆を常に提供するため、 「 フレッシュ・ローテーション 」 という独自の生産・配送システムも構築している。店と工場の間でPOSによる完全受注生産システムを導入、日々のオーダーに応じて、必要な量だけを焙煎しているのだ。店舗においては、コーヒーの抽出に欠かせない “ 蒸らし ” の工程を持った自動抽出機などドトール仕様にアレンジされたこだわりのマシンがならび、浄水器や軟水器を導入して、おいしい水にも配慮をしている。そして、香りが逃げることや酸味が出るのを防ぐために、30分以上の作り置きは絶対に行わないことも遵守している。
生豆の吟味、焙煎への情熱、配送の配慮、そして、店舗で提供する時のこだわり…。コーヒー豆は “ なまもの ” であるという意識を徹底することで、ドトールブランドは成立しているのである。