外食ドットビズでは、厳しい状況にある外食産業のために、業界関係者や有識者のさまざまな意見を掘り起こして、少しでも活性化に役立つ情報を発信する目的で『食の危機を乗越える』をシリーズ化している。(過去の特集一覧はこちら)
2009年の初回は、中国産冷凍餃子中毒事件を皮切りに“食の安全”にまつわる問題が昨年多発したことを受けて、外食産業の活性化に欠かせない「食の安全・安心」に関する座談会をお届けする。過去に発生した事件や事故を例に挙げ、フードジャーナリストの加藤秀雄氏、フードアナリストの堀田宗徳氏、外食ドットビズ論説主幹の坂尻高志氏の意見から、原因や背景の分析とこれからの対応策について提言したいと思う。
―― 自給率を上げるというお話がありましたが、だからといって、いきなり中国産の食材を使わないというわけにはいきません。多くの問題が発生した中国の食材の実態はどのようなものですか?
【加藤氏】 まず、中国で起こっている問題が、事故なのか、事件なのかを仕分けないといけません。事件では防ぎようがない側面がありますから。残留農薬は構造的な問題かもしれませんが、冷凍餃子の問題は事件性が強いですから。人為的、意図的にやったものはどうしようもないのに、中国の食材すべてが危険と判断してはいけないと思います。
【堀田氏】 その意味でも、中国での流通や生産をしっかりと管理する必要は出てくると思います。
【坂尻氏】 そこが中途半端ですね。調達に責任を持てない状況なら、教育や指導をして、設備投資もしないといけないわけです。それで、確実に安全だというものを調達してくる。そこを他人任せにしておいて、中国産はダメだというのは間違っていますよね。
――ニュース映像で見る限りは、きれいで立派な工場が多いですよね。
【堀田氏】 日本企業が管理しているところは、とてもしっかりしています。餃子で問題になった天洋食品もしっかりした工場で、製品名の通りに餃子をひとつひとつ手作りしていました。真相はまだ解明されていませんが、何らかの理由で誰かが毒物を混入させただけかもしれません。
【加藤氏】 私が見学した三菱商事が出資している工場では、実に衛生的な環境で、人海戦術を使って餃子を皮から手作りしていました。当初、餃子を入れる器が陶器で、破損してチップが入る可能性があると指摘したら、現地の人々もきちんと問題を理解して、すぐにプラスティックに変えてくれたそうです。細かいことまで指示を出す日本スペックに対応してくれる工場は安心していいと思います。そのような現状を踏まえた議論もなしに、中国製をすべて否定するのは間違いです。関連するかどうか分かりませんが、遺伝子組み換え農産物に関しても、もっとちゃんと議論すべきだと思っていますね。
――それは、遺伝子組み換えでもいいじゃないかということでしょうか?
【加藤氏】 そうではなく、まず議論をすべきということです。
【堀田氏】 私も同意見です。何故かというと、遺伝子を組み換えると収穫量が格段に上がるという事実があるからです。日本は人口が減る時代ですが、全世界では爆発的に増えようとしています。いくら日本の人口が減るとはいっても、食料自給率を 100%まで上げるのは無理で、海外から調達しなければいけません。そうなったときに、果たして日本に売ってくれるかという食料安全保障の問題が出てくるのです。きちんと議論をして、遺伝子組み換えが悪ければ悪いでいいのです。ですが、いざ輸入する際に、遺伝子組み換えでもいいですか?と言われて全否定をしてしまうと調達が難しくなるのです。大豆は遺伝子組み換えが多く、日本の味噌メーカーにはアメリカで組み換えでない大豆を作ってもらっている企業があります。ところが、遺伝子組み換え大豆のニーズが高くなって、切り替えようとしている農家も多いのです。味噌メーカーは、すでに高い値段で仕入れているのに、生産を続けてもらうためにはさらに高額になってしまって、調達できなくなる可能性があります。そうなったときに、どうすればいいのかという問題が起こります。他国の土地を借りて、日本で独自に作るということも必要になるかもしれませんが、すでに、その競争にも遅れをとっている事実があるようです。そういった状況を考えると、遺伝子組み換えについて、もう一度議論をしないといけないように思います。
――「 大豆(遺伝子組み換えでない) 」 と書いてあったら、それで食の安心と捉えてしまいがちです。実情を知らずに、組み替え=悪と全否定してしまうのは、情報不足が問題かもしれませんね。
加藤 秀雄(写真中央)
1951年東京生まれ。73年に日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、同年10月の創刊時から副編集長職に。
91年9月から2000年7月まで、9年9カ月にわたり編集長を務める。2000年12月にフードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。03年1月、ベンチャー・サービス局次長、同3月付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任する。06年3月、日経BP社を退社。98年4月からは女子栄養大学非常勤講師を兼務(08年3月まで)。05年4月から大正大学、東京栄養食料専門学校非常勤講師。
堀田 宗徳(写真右)
1957年生まれ。1989年に農林水産省所管の財団法人外食産業総合調査研究センター(外食総研)に研究員として入社。99年、主任研究員となる。05年から関東学院大学人間環境学部、尚絅学院大学総合人間科学部、07年から宮城大学食産業学部、仙台白百合女子大学人間学部で非常勤講師(フードサービス論、フードビジネス論、フードサービス産業概論、フードサービス事業運営論、食品企業組織論など担当)も務める。
専門領域は、個別外食・中食企業の経営戦略の分析、個別外食・中食企業の財務分析、外食・中食産業のセミマクロ的動向分析、外食産業市場規模の推計、外食・中食等に関する統計整備など。主な著作はフードシステム全集第7巻の「外食産業の担い手育成に関する制度・施策」(共著、日本フードシステム学会刊)、「明日をめざす日本農業」(共著、幸書房)、「外食産業の動向」、「外食企業の経営指標」(いずれも外食総研刊「季刊 外食産業研究」掲載)など著作も多数あり。
坂尻 高志(写真左)
外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長、事業部運営スタッフ、本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。 1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。
文: 貝田知明 写真:トヨサキジュン