外食ドットビズでは、厳しい状況にある外食産業のために、業界関係者や有識者のさまざまな意見を掘り起こして、少しでも活性化に役立つ情報を発信する目的で『食の危機を乗越える』をシリーズ化している。(過去の特集一覧はこちら)
2009年の初回は、中国産冷凍餃子中毒事件を皮切りに“食の安全”にまつわる問題が昨年多発したことを受けて、外食産業の活性化に欠かせない「食の安全・安心」に関する座談会をお届けする。過去に発生した事件や事故を例に挙げ、フードジャーナリストの加藤秀雄氏、フードアナリストの堀田宗徳氏、外食ドットビズ論説主幹の坂尻高志氏の意見から、原因や背景の分析とこれからの対応策について提言したいと思う。
―― 偽装や不正の他にも、食の安全や安心にまつわる問題はたくさんありますが、どういった問題を危惧されていますか。
【堀田氏】 食品廃棄の話がありましたが、日本は食材の6割を輸入している自給率 40%の国です。世界各地から輸入しておいて、ロスになりましたというのでは、いまアフリカで餓死している人に申し訳が立たないです。最近は、コンビニで早めに回収された食べ物をリサイクルする動きがありますが、有効活用的にしていかないと非難されるのではないかと危惧しています。
【加藤氏】 水についても同じように言われるでしょう。食品を作るためにどれだけの水を使っているのかという考え方においても、日本は量が多くて、世界各地から水を収奪しているのではないかと指摘されています。
【堀田氏】 それから、CO2に関したフードマイレージでも日本が全世界で一番高いのです。食料産地からの距離×仕入れ量をトン・キロメートルで示すのですが、それだけ、CO2を出しているということです。フードマイレージ問題を考える上で、地産地消が注目されているのです。
――そういった問題や対策は、どこで教えるべきなのでしょうか?
【加藤氏】 食に対する意識を持つということで、小学校ではないでしょうか。実際に、食育の一環として栄養教育も始めているようです。
【坂尻氏】 味覚は就学前に決まってしまいますから、小学生でも遅いかもしれませんが、私も小学校で教えるべきだと思います。近年のキーワードになっている食育や、ひとつの食べ物を皆で食べるという食の原点である「共食」を教えることで、食に対する意識を改善する効果が将来的に出てくるはず。
【加藤氏】 賞味期限や消費期限の問題も人間としての五感の問題です。苦い=毒、酸っぱい=腐っているなどの失われた感覚を鍛えることができれば、食べる期限も自分で判断できるのです。
【坂尻氏】 地鶏とブロイラーを食べ比べたら、圧倒的にブロイラーの方が美味しく感じたことがあります。口に馴染んでいるから、美味しく感じるんですよね。僕らみたいな、いや失礼、僕みたいな汚れた大人はともかく、消費者としての力を付けるには、学校給食の中でも本物の味を食べさせないといけないですよね。栄養バランスだけでなく、料理の組み合わせや、調理方法とか素材そのものの味を理解するには、出来る限り子供の時から教え込む必要があると思います。
【堀田氏】 僕らが小さい頃は、農家の方にキャベツをもらったら、よく青虫が食っていたものです。「 虫が食ってるよ 」 といったら、「 虫がおいしいと食べる位だから、人間が食べても美味しいんだ 」 と言われたものです。しかし、昨今は、虫が食っていたらダメな商品になってしまうわけですよ。消費者に嫌われてしまう。自然で無農薬であれば、虫が食うのが当たり前ですよね。
【加藤氏】 最近は、消費者の間にもそういう感覚が戻りつつあるらしいです。葉っぱに穴が開いて、虫が食っているから安心という考えの人も増えてくるでしょう。
【坂尻氏】 確かに、「 曲がっているとキュウリじゃない 」 という感覚は薄れつつありますね。あれは物流コストを抑えるには、たくさん箱に入るまっすぐの方が都合がいいと、産地に依頼して作らせたものですからね。
【堀田氏】 物流面や産地のこと、我々食べる側の問題など、いろいろな問題が出てきます。安全・安心を考える上では、食べるところだけの問題ではすまないです。いわゆる一気通貫で産地から消費者までの間、どう動いているのかを全員が知っておかないといけないですよね。
加藤 秀雄(写真中央)
1951年東京生まれ。73年に日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、同年10月の創刊時から副編集長職に。
91年9月から2000年7月まで、9年9カ月にわたり編集長を務める。2000年12月にフードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。03年1月、ベンチャー・サービス局次長、同3月付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任する。06年3月、日経BP社を退社。98年4月からは女子栄養大学非常勤講師を兼務(08年3月まで)。05年4月から大正大学、東京栄養食料専門学校非常勤講師。
堀田 宗徳(写真右)
1957年生まれ。1989年に農林水産省所管の財団法人外食産業総合調査研究センター(外食総研)に研究員として入社。99年、主任研究員となる。05年から関東学院大学人間環境学部、尚絅学院大学総合人間科学部、07年から宮城大学食産業学部、仙台白百合女子大学人間学部で非常勤講師(フードサービス論、フードビジネス論、フードサービス産業概論、フードサービス事業運営論、食品企業組織論など担当)も務める。
専門領域は、個別外食・中食企業の経営戦略の分析、個別外食・中食企業の財務分析、外食・中食産業のセミマクロ的動向分析、外食産業市場規模の推計、外食・中食等に関する統計整備など。主な著作はフードシステム全集第7巻の「外食産業の担い手育成に関する制度・施策」(共著、日本フードシステム学会刊)、「明日をめざす日本農業」(共著、幸書房)、「外食産業の動向」、「外食企業の経営指標」(いずれも外食総研刊「季刊 外食産業研究」掲載)など著作も多数あり。
坂尻 高志(写真左)
外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長、事業部運営スタッフ、本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。 1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。
文: 貝田知明 写真:トヨサキジュン