新宿駅東口改札のほど近くに小さなカフェがある。実質15坪ほどのスモールな店舗であるが、年商が約2億円というビッグな飲食店である。新宿で創業40年を迎えた同店の店舗運営の考え方などを副店長の迫川尚子氏に話を伺った。
-店舗運営に関するお考えをお教え下さい。
常連さんに飽きられないようにすることも大切ですが、新宿駅という場所を考えると、ふと立ち寄られる方もいらっしゃいます。一期一会じゃないですが、「 この一皿、この一杯がその方にとって最高のものであるように 」 ということは常に考えています。後は、皆様に対して平等に接するという事も心がけています。新宿には、色々な方がいらっしゃいます。それこそ女装をされた方、住居がない方、タレントさんなども来られます。それが新宿駅という場所で飲食店をやって行く上で大切なことだと思っているからです。
客層は本当に幅広いですね。もともとはサラリーマン層をターゲットにしていたのですが、塾通いの小学生から隠居されている年配の方まで様々な方にご利用頂いています。そういった幅広い方々にご満足頂けるメニューの品揃えには注力しています。
一日に1500名ほどのお客様にご来店頂いています。特に朝の 7:00 ~ 10:00、昼の 12:00 ~ 14:00、夕方の 17:00以降は沢山のお客様で賑わいます。ただ不思議なもので、混んでくるとタウンターで常連さんが身体を斜めにして、空いたスペースにお客様を誘導していただいたりしてくださいます。また、注文で迷われる方がいらっしゃると、後に並んでいる常連さんが、メニューの説明やお勧めをして下さったりとお客様同士の不思議な秩序が見受けられます。このようなことを鑑みるとお店というのは、店舗スタッフだけではなくお客様と一緒に作り上げて行くものだと思わざるを得ません。
-経営者の役割についての考えをお教え下さい。
トップの役割は、大きくどっしりと構えていることですね。ただ精神的には物凄く孤独だと思います。責任を全て負わなければいけませんから。私はNo.2なので精神的には少し楽なのですが、副店長という仕事は、割と細かくて面倒な面があります。スタッフに対しては、極力自由にさせてあげて、場合によってははっぱをかけたり手綱を引くことが必要と考えています。そのためにはコミュニケーションが重要です。基本的には、とにかく 「 やってご覧 」、何かあると呼び出して話をする。厨房を出たところにちょっとしたスペースがあるのですが、私たちにとってのミーティングスペースですね(笑)。
もう一つが、商品に対するチェック。飲食店にとっては、味を保ち、常に向上させていくことが大切です。ですから食材の管理方法はあたり前、味・色・硬さが変ってしまうソーセージの茹で方や焼き色が変るトースターの入れ方まで気を使って見るようにしています。本当にここまで細かくやる必要があるの?というくらい(笑)。
-飲食店を取巻く環境をどう捉えていらっしゃいますか?
新宿駅だけではなく、都会のターミナルビルやショッピングセンターなどの商業施設では、中小規模の飲食店にとって非常に厳しい環境におかれていると思います。その一つの要因が、2000年に導入された定期借家契約です。従来の賃貸借契約の場合は、正当な事由が無い限り貸主から契約解除を申し入れることができませんでしたが、定期借家契約の場合には、契約期間が満了すると確定的に賃貸借が終了してしまう契約です。これだと、1年とか2年という短期間で設備投資などの借金を返さないと経営が成り立たないことになります。そうなると資金力もブランド力も無い個人店や中小規模の飲食店には厳しい状況と言わざるを得ません。幸いにもBERGは、従来の賃貸借契約で営業権が守られていますが、今後、都会の商業施設に出して行きたいと思われている飲食企業にとっては大きな問題です。これでは街々の特色が薄れて日本全国同じようになってしまいます。例えば、新幹線の駅を降りるとどこも同じような感じですよね。やっぱりその土地にしかない、特色のあるお店が増えていって欲しいと切に思います。
【定期借家制度の概要については こちら(外部リンク:国土交通省ホームページ)】
BEER & CAFE BERG(ベルク)
運営 晴山(せいざん)商事株式会社
代表 代表取締役 井野朋也氏
所在地 東京都新宿区新宿3-38-1 ルミネエストB1
取材協力 取締役 副店長 迫川尚子氏
迫川尚子氏プロフィール
調理師。きき酒師。写真家
女子美術短期大学卒業。現代写真研究所卒業。
写真集に「日計り」。著書に「食の職」。共著に「新宿駅最後の小さなお店ベルク」
迫川尚子フォトムービー・サイト「写真とベルクの間で」 http://berg.s1.bindsite.jp/