米国産牛肉が残した影響と輸入牛肉問題の本質 ~ジャーナリストが探る輸入牛肉問題の本質~

米国産牛肉が残した影響と輸入牛肉問題の本質 ジャーナリストが探る輸入牛肉問題の本質

2003年12月24日、米国内でBSE感染牛が発見されたことに端を発する米国産牛肉の輸入禁止問題。解禁、そして再禁止と紆余曲折を経るなか、外食産業では業界再編にも近いほどの大きな影響がありました。改めて輸入が再開された現在も流動的な状況が続いていますが、「外食日報」編集長という立場で、この問題を目の当たりにしてきた菅則勝氏に輸入牛肉問題の根底にあるポイントを語っていただきます。

第2回 想定外の長期化が生んだ企業戦略の格差

2003年12月24日はソワソワとしながらすごしている。
午後には日本フードサービス協会(JF)が開いた会見に出かけた。会見には安部修仁副会長(吉野家ディー・アンド・シー社長)、加藤一隆専務が出席。今後生じるかもしれない外食業界への影響を伝える内容だった。
安部副会長は「緊急に輸入停止措置を施して、消費者の不安を払拭した、政府の対応には一定の評価を示したい」と述べながら、「政府には不安の払拭と安定供給を分けた対応を望みたい。安全を満たした部位ごとに調達可能なように取り組み、食卓を傷つけないような対応を取らなければならない」と強調している。
当時、米国産牛肉は日本の牛肉消費の3割以上を占めており、外食業界でとても大きな役割を占めていた。外食業界では、部位ごとの供給が可能、穀物肥育牛肉の品質といった2点から米国産牛肉を高く評価している。
特に部位ごとの供給が可能という点は大き特徴だ。特定のメニューを開発する際、もっとも使用しやすい部位を購入すれば、加工がしやすく、ロスが減って歩留まりが良くなるというメリットがある。外食産業のローコストオペレーション確立を支えてきた功労者といえるだろう。当時、米国産牛肉は、ファミリーレストランやディナーレストランで提供するステーキ、焼肉店、牛丼店などの幅広い業態のメニューで使用されてきた。
幅広い業態やメニューで米国産牛肉を使用しているということは、それがなくなった場合に深刻な影響を受けることになる。外食業界がもっとも不安を感じたのは輸入禁止によって生じる供給問題だ。安部副会長が外食業界の声として安定供給確保を強調したこともうなずける。

想定外の長期化が生んだ企業戦略の格差すでに述べたように、当初はこれほど輸入休止期間が長期化すると考えていた人はほとんどいなかったに違いない。
各社の持っている在庫は1ヶ月から1ヶ月半程度。すぐに在庫がなくなるという状況ではないものの、在庫の残量と今後のメニュー提供で対策を立てなければならない状況になってきた。
2004年春までは牛丼チェーン、焼肉チェーンで、米国産牛肉のない状態を乗り切るための施策を打ち出しており、もっとも動きが活発化した時期だ。そういう意味では米国産牛肉不在による影響が表面に現れだした時期といえる。

2004年になると、牛丼チェーンでは、メニューミックス化を進めている。1月には吉野家は新メニューのカレー丼などを、なか卯では豚の角煮を使用した豚角煮丼をそれぞれ投入。
各社ともに在庫量をにらみながら、牛丼の代替メニュー開発を急いだ。
代替の本命といえるメニュー(考えてみれば不思議な表現だ)が登場したのは1月29日。ゼンショーのすき家が豚肉を使用した豚丼(とんどん)を一部店舗で投入し、2月5日までに全店舗での投入を終えている。2月になると、在庫を使い切った牛丼チェーンが次々と牛丼の提供を休止した。
すき家を皮切りに牛丼チェーン各社は牛丼と入れ替わるように豚肉を使用した豚丼を投入している。吉野家が3月に投入した時点で大手4社ともに豚丼が出揃ったことになる。

焼肉チェーンでも抱えている在庫量は同様であり、在庫をにらみながら対応を検討。代替メニューの導入、米国産以外の牛肉への切り替え、これまで使用していなかった米国産牛肉の部位の活用といった動きがみられた。
焼肉屋さかいでは3月から豚肉や鶏肉を使用した代替メニューを投入。米国産のチルド牛肉を主に使用してきたが、牛肉メニューの提供を休止して豚肉や鶏肉を使用したメーンメニュー20品程度を投入している。このとき、和牛や豪州産はサブメニューという位置づけであり、あくまでもメーンのなるのは豚肉や鶏肉を使用したメニューだ。焼肉屋さかいの城倉宏栄社長は「屋号を『焼?屋さかい』にかえるほどの強い決意をもったチャレンジ」と語っている。
安楽亭では米国産牛肉をメーンメニューに使用しながら、豪州産牛肉、国産牛肉も使ってきた経緯がある。2月には利用客への還元という意味合いで、米国産牛肉を使用した一部商品を半額にするといったフェアを実施した。その後、4月には豪州産穀物肥育牛肉をメーンに切り替えている。
レインズインターナショナル牛角でも米国産牛肉をメーンに使用してきた。2月時点で、西山知義社長は「現在ある在庫を延命するため、これまで使用していない(米国産牛肉の)部位を使用したメニューを投入する。これによってメーンメニューへの依存度を引き下げたい」と施策を説明し、「8月一杯までの在庫を確保できた」と見通しを示している。

想定外の長期化が生んだ企業戦略の格差特に焼肉チェーン3社の対応は興味深い。焼肉屋さかい米国産牛肉のチルドをメーンに使用し、それを差別化要因としてきた経緯がある。米国産牛肉の輸入禁止とメニューコンセプトを改めざるを得なくなった。安楽亭はこれまでも豪州産を使用しており、豪州産牛肉へのシフトが他社にくらべてすんなりと進んでいる。牛角ではこれまで使用していない部位を活用しながら、米国産牛肉をメーンとして提供。差別化の要因としている。
三者三様の違いには、米国産牛肉の輸入再開に向けた見通し、それぞれの食材調達力、業態についての考え方がよく表れている。特に見通しの違いは顕著であり、長期化なのか、ある程度の期間が過ぎれば解禁されるのか。各社なりに見通しが異なる。
これほど長期間にわたって米国産牛肉の不在が続くとは誰も思っていなかったこともよく表れているといえるだろう。



菅則勝

菅 則勝

1970年、埼玉県生まれ。書籍編集者、業界紙記者を経て、2000年3月、外食産業新聞社に入社。02年7月より日刊の外食専門紙である外食日報の編集長を務める。これまで米国、カナダ、オーストラリアで、食肉加工業者のと畜加工処理プラント、肥育場、飼料工場などを視察した経験を持つ。米国、カナダはBSE発生後であり、各国への輸出減少など、さまざまな影響がある貴重なタイミングでの視察となった。

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