有名カフェバーを皮切りに、ラーメン店、居酒屋をはじめとする多くの飲食店のデザイン・設計を手掛け、経営サポート業務にも乗り出している株式会社エイアンドティー.ティ(a&t.t)の上木草平氏。
上木氏が世に送り出した店舗は、いまや日本全国に広がり、それぞれに繁盛店となって成長を続けています。“繁盛の仕掛け人”という異名を持つ上木氏から、これから起業を目指す皆さん、現在個店を経営する皆さんへ、繁盛店を作る条件を伺ってきました。
これからの飲食店は、地方の時代が必ずやって来ます。僕の持論ですが、「どんなに小さな街でも、どんなにさびれた街でも、感動する店に人は来る」というものです。人口が 1万人にも満たない町に店を出すのは不安だと思いますが、僕のところに来るお客さんの中にも成功例はたくさんあります。最近では、秋田県の人口8900人の町で焼肉屋からリニューアルして、売上を月300万円位から倍増させた店があります。過疎化が進み、高齢者が多くなってくると、どうしても焼肉には足が遠のくものです。そこで、“ 焼肉も食べられる居酒屋 ” に業態変更をしたのです。魚メニューを入れたり、焼鳥もピザも食べられるようにしました。
昔の小さな田舎町では、「なんでも屋」というものがありました。ホウキやタワシなど雑貨を売りながら、その横にパンもタバコも売っているようなお店です。田舎には、そういう形態の飲食店の需要があるのです。つまり言葉は悪いけれど、“ 八方美人の店 ” が受けるのです。幅広い年齢層のお客様を取り入れるだけではなく、そういったかたがたに幅広い使われ方をされるようなお店が良いですね。町内のおじさん達の集まりや、若者たちの同窓会、 PTAの会合などいろいろと対応できれば、人口は少なくても集客できるというものです。そういった “ 集いの場 ” をつくれば、近隣の町からも集客することが可能です。つまり、その町の人口よりも商圏という考えを大事にすればいいのです。
ちなみに、僕たちが店を作る時やリニューアルをする際には、座席のシミュレーションを念入りに行ないます。一人のお客様はここに座っていただく、 2人ならここ、3人なら4人なら・・・という具合に、20坪40席の店なら40人まで計算します。40人なら貸し切りですが、30人の団体が入った場合に残りの10席をどう使うかを計算して、レイアウトを決めるわけです。これは、満席率を高めることが狙いです。地方の店を見ると、6人テーブルに2人で座っているようなロスの多いケースがあります。使われ方を幅広くするためには、そういう計算を綿密に行うことが大切です。
現在は、出店する環境を考えても、東京や首都圏よりもそれこそ地元の小さな街を勧めています。最近の例ですが、東京近郊の神奈川の街でも 13坪で55万円という家賃でした。月600万円を売らなきゃどうしようもない物件ですよね。でも、アクアラインで東京湾を横断した千葉県にいくと、家賃24万円で300坪の土地を借りられたりします。東京なんて、もはや飲食店をやるような場所じゃないですよね。僕も経験がありますが、家賃のために働いているような感覚になりますよ。それに、夜のピークにアルバイトを雇おうとしたら、時給1200円は必要です。地方だったら750~800円程度。さらには、工事費も違いますね。イニシャルコストに大きな差が出ます。それで、同じ売上を上げられるなら、どう考えても地方に出店するに限りますよね。
それに、地方で良いお店を作って流行らせることは、大きな社会貢献にもなります。ある地方でお手伝いさせていただいたお店のことですが、銀行の人が 「ご融資できて良かった」と泣いて喜んでくれたり、商工会議所の人たちからは「この街にこんなお店が欲しかった 」と、さらにはお客様として来てくれたりします。それから、 “ やればできるんだ ” ということをその街の商店主に知らしめることもできます。社会的な役割を持つことは繁盛店の必須条件ですから、その意味でもこれからは地方への出店を考えるべきだと思いますし、つまり今は、地方だからこそ繁盛店になるとさえ言えるのです。
上木 草平
1950年、石川県生まれ。1970年に東京の店舗内装会社に入社、84年に店舗の企画デザイン・設計施工を業務とするa&t株式会社を設立。一店一店、オーナーに合わせた店創りで数多くの繁盛店を生み出す。2003年には、物件探しや資金調達など初期段階から飲食店経営をサポートする株式会社a&t.t(エイアンドティー.ティ)を設立、日本全国に数々の繁盛店を誕生させている。
株式会社エイアンドティー.ティ 代表取締役